突然だが、これを読んでいる貴方は何フェチだろうか。例えば匂いフェチや筋肉フェチなどよくあるものから、動物や特定の物に対するフェチなど、現代の人間は大抵何かしらの「フェチズム」を持っていると思う。
今回レビューする『Ghostwire:Tokyo』はそんなフェチズムがふんだんに盛り込まれたゲームだった。
※本レビューはSteam版のプレイを元に掲載
本レビューを読み進めていく上で、まずは本レビューにおける「フェチズム(フェティシズム)」の定義を再確認しておこう。
フェティシズム
フランス語の「フェティッシュ(物神、呪物) 」から生じた言葉であり、ある対象、あるいはその断片を偏愛する態度のこと。
出典:artscape
筆者が今回のレビューで口にする「フェチズム(以下フェチ)」は主に上記の意味で使っていると考えていただきたい。18禁な話ではないのでご安心を。冒頭で述べた通り、「フェチ」は有機物無機物問わず様々な物・事象に対しても感じ得る可能性がある、人によって千差万別なものである。
『Ghostwire:Tokyo』はこの様々なフェチ要素が制作陣のこだわりとして大量に盛り込まれているのだ。そのため好きな人はとことん好きなゲームだが、このゲームのフェチ(こだわり)を理解できない人にとっては「つまらなくはないがそんなに面白い要素も無い(あるいはつまらない)」、そんなゲームになるのではないだろうか。
いかに本作がフェチまみれなのかを話す前に、ある程度ゲームの基本的な話をしておきたい。公式サイトやトレイラーを見ずにいきなりレビューを読む人は少ないと思うのである程度割愛するが、本作は一言で言えば魑魅魍魎が跋扈する渋谷周辺が舞台の陰陽師FPSだ。
▲主人公『暁人』。『KK』が取り憑いた事で難を逃れる。
ゲームは渋谷のスクランブル交差点で事故を起こして死にかけている主人公『暁人』に、自称『KK』という名の魂が取り憑く場面からスタートする。突然取り憑かれて混乱する主人公だったが、それと同時に渋谷に居た人間が突如として霧に飲まれて霧散してしまう。そして謎の般若仮面と大量の妖怪たちが出現し襲われるが、『KK』のもたらした謎の力で撃退する、というのが序盤の流れ。
▲現代的な街並みと怪異のギャップがGOOD
正直序盤の展開はかなり謎が多くイマイチストーリーが分からないが、妖怪たちやリアルに作られた渋谷の街並みなど、ビジュアルの部分でガツンとプレイヤーを殴りつけてくるため、序盤から引き込まれやすい構成になっている。余分なシーンを挟まず次々と展開していくので、長めのムービーも飽きずに見られた。
▲この事態を引き起こした犯人達。カッコいい。
その後、センター街の先にある大きな病院に入院している妹の元へ敵の親玉っぽい般若仮面が出現。「こいつは儀式に使える」みたいなよくあるセリフを放って妹を連れ去ってしまう。主人公『暁人』は妹を救うため、『KK』は儀式を阻止するため、般若仮面を追いかけていくことになる。
▲「手」が攻撃手段。風・火・水を切り替えて戦う。
一人称視点でのシューティングであるFPSにおいて、プレイヤーの体で唯一見える部分といえば「手」だ。銃が出てくることがほとんどであるこのジャンルで画面に映るのは「銃>手」であり、一般的にはここでフェチを感じることはあまりない。だがこのゲームで「銃」の代わりに攻撃手段となるのは「手」であり、「手」にこのゲーム最大のフェチが詰まっているのだ。
▲手のディティールがやばい。
前述の通り本作は「手」から属性エネルギーを発射して敵を攻撃するのが基本となるため、主人公は戦闘シーンにおいて常に手を動かして戦う。発射する属性によって手の型が違うし、敵のコアを引き抜く時はあやとりのような動作で引き抜くし、戦闘が終わったら柔道のような構えを取る。絶対これ手フェチが手フェチのために作ったでしょ。
▲霧を晴らすまでは先へ進めない
舞台となる現代の渋谷は有害な霧に覆われており、近づくとダメージを受けてしまう。各所に設置されている神社の鳥居を浄化することで近くの霧を晴らし、活動範囲を広げていくのが基本だ。現実の神社をモデルにした鳥居だけでなく、なぜかビルの上にも出現しており無駄にカッコいい。
鳥居を浄化する方法、そう、手である。みんな好きでしょ、こういうの。
いかにも”それっぽい”動きをしてくれるので、中二心が滅茶苦茶くすぐられる演出だ。神社内部には強化アイテムが置いてあるので、積極的に浄化していきたくなる。決して演出見たさではない。
また、特定の敵を倒す際や街中に浮遊している魂を浄化する際には「印」を切る事もある。パッド操作やマウスで手を動かしてカッコよくキメよう。
「印」を結ぶのが面倒であれば勝手に操作してくれる機能も付いているが、個人的にはなんでこんなカッコいい動作を自分で操作しないのか甚だ疑問である。普通切りたいでしょ、印。
街中では敵となる妖怪だけでなく、様々な動物とも遭遇する。本作では街中で犬と猫、あとタヌキ(!?)と会うことができるし、なんなら会話もできる。
▲会話内容も犬と猫で違いをよく表している。まさに犬ってこんな感じ。
犬は「ドッグフード」をあげることで近くのお地蔵様(パワーアップ出来る)に連れて行ってくれたり、ここ掘れワンワンしてお金をくれたりといい事づくめだ。あとかわいい。猫は会話するだけだが、有益な情報をくれることが多い。あとかわいい。
▲かわいい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
またとある神社で会えるタヌキは、渋谷中に隠れている子分のタヌキを探し出す事で報酬をもらえるようになっている。隠れているといっても化け狸なので、街にある様々な物体に擬態しているのだが、もちろん尻尾は隠れきれていない。
▲買い取ったアイテムを被る猫又。被り方もかわいいんだこれが。
街中のコンビニや出店といった売り場では妖怪の猫又が店番をしており、様々なアイテムを売ってくれたり、コレクションアイテムの買取をしてくれる。買い取った獅子舞の頭を被り始める猫又もおり、完全に猫派のプレイヤーを殺しにきている。ちなみに筆者は死んだ。
▲焼肉店「店長の肉」。店長の・・・・・・?
本作において欠かせない魅力として、非常に精巧に再現された渋谷(日本)の町並みを挙げたい。入念な現地調査によって作られた街並みは現実と比較しても違和感が無く、街の看板ひとつひとつまで丁寧に作られている。筆者はこういう『ゲーム内で再現された街並み』が異常に好きなのだが、これもフェチといっても良いのではないだろうか。
ゲームの都合上改変された部分や縮尺がおかしな部分はあるが、基本的には現実の街並みを非常にうまく再現しており、特に目玉となるスクランブル交差点付近の再現度は眼を見張るものがある。故あって渋谷には毎日通っていた事もあるのだが、渋谷駅付近をゲーム内で歩いていると「あ!ここ見たことある!」といった場所が非常に多かった。渋谷中心から離れた場所は都内各地の街並みを散りばめて作っているようで、知らない場所でもどこかで見たことがあるような日本の風景を非常にうまく再現している。
▲つちのこ味。
街並みや看板だけでなく、ポスターやスナック菓子、飲料などのパッケージも作り込まれており、ひとつひとつ見て回るのが楽しすぎてゲームが進まなくなる事請け合いだ。
人間が居なくなった渋谷には肉体を奪われた魂が漂っており、それを式紙で回収して救出していく必要がある。どうやら回収した魂を霧の外へ送り返す事で魂が肉体に戻れるらしく、回収する度に経験値とお金を貰えるためやらない手は無い。
ではどのようにして魂を渋谷の外へ送るのか?
電話ボックスから送るのである。
なんと電話がパカッと開いて接触式の端末が出現。魂が入った式紙をまるでICカードのようにタッチして転送する。現代的ー!!!!!!
最初見たときはあまりに好きすぎて大喜びしてしまった。現代の街並みに紛れ込むオーバーテクノロジーのような、それでいて式紙を使うどこかアナログな装置に一瞬で心を奪われてしまったのである。ただ、こういった謎装置がじゃんじゃん登場してくれればよかったのだが、他にはあまり心をくすぐられる装置は出てこなかった。残念。
▲主人公の相棒となるKK。声がいい。
最序盤で突然『KK』に取り憑かれる『暁人』だが、ストーリー全体を通して二人の掛け合いを楽しめるのも本作の魅力だ。序盤は見ず知らずの男に取り憑かれて不本意だった暁人も、ストーリーが進む毎に態度が軟化。最終的には戦闘開始時に「行くぞ!相棒!」とまで言い合う仲になる。
この二人の関係の描き方がまた上手い。ストーリー全体を通して2人それぞれの葛藤があり、お互いが励まし合って先へ進んでいく男同士の友情はテンプレだがプレイヤーの心にクリティカルヒットする。ネタバレになるためあまり語れないが、2人の最後のシーンは非常にグッと来た。
一方でストーリー全体を見たときの評価としては「並」。わりとテンプレな流れが続くため、ストーリー展開に驚きや目新しさはそこまで感じなかったのが残念だ。とは言え現代渋谷×妖怪×FPSの時点で目新しさしか無いのだが。
逆に言うと決してつまらない話ではなかった。期待しすぎてもいけないが、ある程度はワクワクしながら話を進められたことには違いない。
冒頭でも述べたが、本作はフェチを理解できる人にとっては素晴らしく面白いゲームだ。逆にそこを理解できなければ並のゲームに留まってしまう。制作陣のフェチズムはトレイラーやスクリーンショットで十分確認できるはずなので、少しでも惹かれるものを感じたならイチオシしたい。始終ニコニコしながらプレイする事になるだろう(経験談)。
ゲームの細かな部分も丁寧に作られており、操作感やシステム面でもプレイヤーに極力ストレスを与えないような制作陣の意図が感じられ、ゲームとしての基本的なクオリティは非常に高いものとなっている。あとは合うか合わないかだけの問題なので、正直ここまでレビューを読むレベルで気になっているのであれば是非プレイしてみてほしい。
総合評価 | ||
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50.5点/60点 | ||
世界観 | グラフィック | 戦闘 |
9.0/10 | 10/10 | 8.5/10 |
キャラクター (ストーリー) |
サウンド | 快適さ |
8.5/10 | 7.0/10 | 7.5/10 |
【総合評価】 総合評価は10点満点となっており、10点=神ゲー、5点=普通、1点=致命的のように点数が高いほどより面白いゲームと言えます。 【6項目評価】 世界観:世界観の出来栄えの参考値 グラフィック:映像や背景の綺麗さの参考値 戦闘:戦闘システムの面白さなどの参考値 キャラクター:キャラたちの魅力、背景の参考値 サウンド:ボイスやSE、BGM等の参考値 快適さ:ロード時間や操作性、運営の更新性の参考値 |
タイトル | Ghostwire: Tokyo |
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発売日 | 2022527 |
開発元 | Bethesda Softworks |
対応機種 | |
ジャンル | |
プレイ人数 | |
CERO | A |
『Ghostwire: Tokyo』評価レビュー|フェチズム溢れる陰陽師FPS