料理によるキャラクター強化を主軸においた作品は、過去に例がないわけではない。そして、そのようなジャンルの作品はプレイヤーのシステムへの理解が深まるにつれ「面倒くさい」要素として評されることも少なくなかった。残念ながら、本作『屍喰らいの冒険メシ』もその例外ではない。
しかし、その手間と労力と不便なUIを目にしてもなお、ローグライク・ローグライト好きとしてプレイを続けたくなる魅力が本作には潜んでいる。その正体は、屍喰らいではなく遺跡荒らしとしての中毒性であった。
▲パッケージイラスト。楽しそう
パッケージを見てみよう。冒険者と思われる人物と、周囲に散りばめられた魔物たち。魔物たちは明らかに調理にうってつけの外見だ。なんなら肉や魚まで描かれている。のんきにフライパンを片手にしている男もいれば、きのこの串焼きを片手にしている少女もいる。「屍」というおどろおどろしい文字を目にしてもなお、明るい雰囲気が見て取れる。
しかし、ゲーム内の実際の料理は例えば以下のようなものだ。
▲見た目は最悪だが、ゲーム的には序盤から頼れる料理
これではパッケージ詐欺だ。愉快で朗らかな冒険譚はどこへいったのか。あるいは初めからそんなものはなかったのか。実際、多くのプレイヤーが最初に口にする冒険メシは昆虫となるだろう。ゴキブリだ。黒光りする何かの串焼き。デフォルメ張のデザインに騙されて本作を購入すると、特に昆虫に対して耐性のない人間は痛い目を見るだろう。
▲冒頭で屍を喰らう少女。これを食べずにいると……
主人公たちの背景は遭難してしまった新米冒険者だ。どこか別の物語で英雄になっていたかもしれない彼らは飢えと渇きの中、どうにかして生還を果たす。それが本作のストーリーであり目的となる。それを象徴するエピソードが、ゲーム開始すぐのチュートリアルとなる。
ゲームを初めて間もなく、遭難した主人公は極限状態の中で魔物の腐肉を発見し、それを喰うか喰わないかの選択を迫られる。ネタバレになるが、ここで拒否すると冒険者は死ぬ。嘘だろ、と思うくらい容赦なく餓死する。当然のようにスタッフロールが流れ始める。1分と少しでゲームクリア。いや、それでいいのか?
それでいいのだ。生きて帰るためにはなんでも口にする。それが本作のテーマなのだから。
▲食事中の風景はまあまあ微笑ましい
誤解のないように言っておくと、本作は最初から最後まで昆虫食を強いるわけではない。当然ながら主人公らは遭難した身であり、まともな調理器具など何一つ持ち合わせていない。火炙りにした昆虫や魔物の肉を喰うのが精々なのだ。
新米とはいえ冒険者といったところか、探索を続けていくと木材や鉱石を利用して相応の調理器具を用意できるようになる。新しい、見たことのない食材も手に入る。「名もなき誰か」が残したレシピ本を発見することで、断然新たな料理の幅も増えてくる。そうなると、やっと人間らしい食事にありつけるようになる。
本作は冒険者たちにカロリーと水分のステータスが用意されている。ダッシュや時間経過などで数値が減少し、どちらかが0になるとHPが減り始め最終的には餓死してしまう。食事を摂ることでカロリーや水分を補給でき、冒険を続けることができる。
▲パッケージイラスト。楽しそう
しかし本作における食事は、冒険者たちが活動するためだけのエネルギー源というだけではない。冒険メシには様々な栄養素が含まれており、見てくれ以上の活力を湧き上がらせてくれる。無粋な話をすると、ステータスが強化されるわけだ。そのおかげで強敵と戦えるようになり、深層まで進めるようにもなる。
よい料理であれば効果はより高く、よい食材であれば料理はより豪華に。最初は「草の素揚げ」「芋虫ロール」しか使えない枯れ草も、冒険者たちの知識や環境が整うことで「ハンバーガー」「山盛りチャーハン」の食材になりうるのだ。気づけば、新しい食材や料理を求めて冒険するようになっている。
冒険メシによる強化幅は絶大なものであり、その効果をいかに発揮できるかが攻略のカギとなっている。料理の効果は千差万別だが、最終的には把握することが面倒になるほどステータスやスキルが盛りに盛られていく。遭難中とは思えないレベルでムキムキになっていくので、良い意味で『日本一ソフトウェア』の伝統芸と言ったところだろうか。
▲キャラメイク。見た目や勿論食事の好みも変えられる
冒険者たちには食事時のリアクションや好みが用意されている。露骨に嫌な顔をするかと思えば、毒が含まれているものであれば嘔吐までする。粗末を遥かに下回る食事ばかりを続けると幸福度が下がっていき、最終的には「発狂」という厄介極まりない状態に陥ってしまう。本作は冒険者全員をキャラクターメイクで作成できるので、少し特殊な趣味を持っている人にとっては一見の価値があるかもしれない。
ちなみに、本作のタイトルにもある「屍喰らい」とは戦闘中に実行できるコマンドのことで、魔物の死骸を喰らうことで一時的に特殊な効果を得られるものだ。カロリーや水分の問題も多少カバーできるので、試してみてもいいだろう。
▲調理画面。食材種類の選択と管理が必要
本作の戦闘テンポは非常に良い。魔物との戦闘はシンボルエンカウント式を採用しており、以降もシームレスに行われる。戦闘開始、戦闘中、戦闘直後まで感心するほどストレスなく進行してくれる。探索においても採取や宝箱からアイテムを取得した際にはポップアップ表示だけで済み、行動を阻まれることがなくかなり快適に進められる。このおかげで、何度やられても再度挑戦してやろうという気にさせてくれる。
しかし致命的なのは、本作の軸となる「冒険メシ」が戦闘・探索のテンポの良さをズタズタに引き裂いている点だ。システムへの理解や攻略の効率化を知れば知るほど、冒険メシを用意することそのものへの煩雑さが現れてくることは否定できない。食材の選択、調理、誰に食べさせるか。
食材には鮮度というパラメータがあり、時間経過で最終的には腐り果てるためこちらの管理も必要になる。あれを作りたいと思えばこの食材が足りず、このスキル効果を与えたいと思えば冒険者のスキル一覧も確認しづらく、かといって食事効果を軽視すると強敵との戦闘には勝てない。そして、全滅時には食事効果が全てリセットされるというおまけつき。結果、食事の用意に大半の時間を費やすことになる。
冒険メシについて、やらなければならない項目が多すぎる。
▲ずらっと並ぶログ。ゲームに慣れると見なくなる
要素の多さは自由を生み、新たな楽しみを見つけるには重要だ。しかし要素が多いということは、自分で見たり覚えたり、決めなければいけないことも多いということでもある。ゲーマーにとっては嬉しい要素である反面、可愛らしい絵柄に釣られてふらりと購入したユーザーには少々酷と言えるかもしれない。
……とはいえ、一旦のゲームクリアまでに最低限知っておくべき要素はそれほど多くない。本作は昨今のゲームとしては比較的難しい分類に入ると思われるが、4段階の難易度変更も可能だ。どうしてもつらくなった場合には甘えてみてもいいだろう。冒険者たちには申し訳ないが、ある程度は手間と労力のかかる冒険メシを粗雑に扱うこともできる。
しかし。肝心の料理が面倒になってしまう理由は、操作や管理の手間が真の理由ではない。
料理を全面に押し出した作品でありながら、悪魔的な装備厳選ゲームであることに気がつくからである。
▲ベース装備、オプション数、レベル、全てがランダム
装備厳選、ハクスラ要素が含まれる作品は世に溢れているものの、昨今では後からいくらでも強化が可能だったり調整が可能だったり、ある程度融通が効いてしまうことが多い。しかし本作では、後天的な装備のカスタマイズが無慈悲にも利かない。「このオプションさえなければ」「このスキルレベルがあと1だけでも高かったら」そのような苦悩を解決してくれる便利な魔法及びシステムは存在しない。
ゆえに、良質な装備を収集できた際の喜びは生半可はハクスラでは体験できない至福のものとなりうる。あなたがこれから入手する装備は、この世に2つとしてない純度100%の天然物なのだ。筆者は簡単にその虜となってしまった。
▲深層に行けば行くほど装備の重要性は上がる
もちろん、本作の攻略において冒険メシは決して欠かせない要素だ。しかし冒険メシの効果とは異なり、全滅時でも何故か装備は手元に残り続ける。
これは本作の攻略において、装備がいかに重要なものであるかを暗に示している。どれだけ敗北しようが、一度手に入れた装備は手放さない限り永遠に攻略のブキとなるのだ(もちろん、そこまで極端に装備にこだらわずともクリアまではこぎつける。念のため)。
▲探索終了後のリザルト。振り返りに丁度いい
『屍くらいの冒険メシ』、本作は料理を題材にしたサバイバルシミュレーションRPGの名を謳ってはいるものの、その本質は装備厳選ハクスラゲーだ。良質な装備を入手するカタルシスが冒険メシを喰らう喜びを遥かに凌駕してしまった結果、料理システムへの億劫さが現れてしまうのだ。飢えているのは食料ではなく装備になってしまう。それだけ、ハクスラとしての魅力が十二分にある。
近年のサブカルチャーコンテンツにありがちなタイトルを目にして本作を避けているのであれば、非常にもったいない。ローグライク・ローグライト好きであればぜひ手にとってみてほしい。体験版も配信されているため、ハクスラ時々メシを喰らう機会としてみてはいかがだろうか。
総合評価 | ||
---|---|---|
6.3点/10 | ||
世界観 | グラフィック | 戦闘 |
6.0/10 | 5.0/10 | 9.0/10 |
キャラクター (ストーリー) |
サウンド | 快適さ |
6.0/10 | 5.0/10 | 7.0/10 |
【総合評価】 編集部が話し合いによって決める参考値です。総合評価は10点満点となっており、10点=神ゲー、5点=普通、1点=致命的のように点数が高いほどより面白いゲームと言えます。 【6項目評価】 世界観:本作の世界の出来栄えの参考値 グラフィック:映像や背景の綺麗さの参考値 戦闘:戦闘システムの面白さなどの参考値 キャラクター:キャラたちの魅力、背景の参考値 サウンド:ボイスやSE、BGM等の参考値 快適さ:ロード時間や操作性、運営の更新性の参考値 |
タイトル | 屍喰らいの冒険メシ |
---|---|
発売日 | 2022527 |
開発元 | 日本一ソフトウェア |
対応機種 | |
ジャンル | |
プレイ人数 | |
CERO | D |
『屍喰らいの冒険メシ』評価レビュー|コンセプトを差し置いた中毒性の正体