『虹のユグドラシル』評価レビュー|色彩変化はローグライクを彩ったか?【Switch】

虹のユグドラシル

ローグライクというジャンルがマイナーであるということは、ローグライク好きが最も良く理解している。それゆえに新作タイトルを見聞きすれば小躍りし、ついつい手を伸ばしてしまう。本レビューは、そんなマイナージャンルをこよなく愛する者に向けた内容であることをご承知いただきたい

そして残念なことに、本作『虹のユグドラシル』は、恐らくローグライク好きの人間に向けて作られた作品ではない。

なお、筆者はローグライクと不思議のダンジョンは別ジャンルであると主張する厄介な人種だが、本レビューにおいては一様にローグライクという呼称でまとめさせていただく。

読了目安:6分程度(約5,200字)

RGBの三原色を盛り込んだユニークなシステム

虹のユグドラシル

▲RGBによってキャラの見た目も毎回変わる

『虹のユグドラシル』最大の特徴は、RGBカラーモデルを用いたゲームシステムにある。RGBとは赤緑青の三原色と呼ばれるもので、ダンジョン内に落ちている「記憶のカケラ」を集めることによってそれぞれの数値が変化していく。

RGBの数値が変化すると、まずはプレイヤーキャラの見た目に変化が訪れる。デフォルトはRGB(50,50,50)で黒ずんだ見た目だが、例えばこれがRGB(255,255,255)に達すると一転して真っ白くなる。極端な例だが、RGB(255,0,255)であれば真紫にもなる。

RGBは見た目の変化だけでなく、戦闘を優位に進めるための要素としても取り込まれている。RGBは三すくみになっており、赤>緑>青>赤…という、ある程度ゲームをたしなんでいる人間であれば慣れ親しんだであろう力関係になっている。赤い敵には青い武器が有効なわけだ。

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▲敵もダンジョンもRGBの影響を受けている

厄介かつ独特なのは、黄色い敵に相まみえた場合だ。黄色はもちろん色の三原色ではない。極端に言えばRGB(0,255,255)であり、つまり有効な武器は緑である(恥ずかしながら、しばらく赤+緑の組み合わせと勘違いしていた)。デザインを生業としない筆者としては、小学生時代の図画工作の時間を思い起こさせるほど意表を突かれたシステムであった。

RGBはキャラの攻撃力や防御力、いわゆる実質的な満腹度にも関係しており、身もふたもない話をしてしまえばRGB(255,255,255)の真っ白な状態に近づくほど強くなっていく。また武器や防具の性能や色合いにもRGBは活かされており、これをして唯一無二の装備を用意するのはやりこみ要素の1つと言えるだろう。

本作はローグライクの味を彩ったか?

「ローグライク」というジャンル

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▲モンスターハウス風のギミックもある。これはピンチ

今更ながら、本作のジャンルは「ローグライクダンジョンRPG」である。「ローグライクとは何か」を解説するにはとても余白が足りないので割愛させてもらうが、他のジャンルで最も近しいのは『ファイアーエムブレム』『FINAL FANTASY TACTICS』『ファミコンウォーズ』シリーズなどを代表とする戦略シミュレーションだろう。ターン制・マス目状のフィールドでユニットを動かすという要素を、極々短いスパンで繰り返すのがベースである。

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▲アイテムを活用しなければ、Hardの攻略は難しい

高いランダム性やハクスラ要素、取捨選択の妙、中毒性すらあるリプレイ性、源流は『Rogue』であり本邦においてそのジャンルを広めた『トルネコの大冒険』シリーズを本流とする作品群は今や「不思議ライク」という別ジャンルとして派生していることなど、その他解説したい要素は山ほどあるのだが、ここでは省略させてもらう。有識者の方々は、どうか一旦お静かに願いたい。

さて、以上を踏まえて本作のジャンルを確認してみよう。「ローグライクダンジョンRPG」。おやおや。ではこのダンジョンRPGとは、一体何を指しているのだろうか?

ローグライク「ダンジョンRPG」というジャンル

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▲スキルがかなり強力。積極的に使いたい

本作のジャンルは「色彩変化×ローグライク」となっているが、ここでは某紹介記事の「ローグライクダンジョンRPG」というジャンルを借りる。ダンジョンRPGというジャンルの定義はローグライク以上にあやふやだが、PRGという単語に注目してみると、本作はまさにその分類に相違ない。

本作にレベルという概念はなく、先述したRGBの数値によって管理されている。ただしRGBはダンジョン潜入時に必ずRGB(50,50,50)になるため、毎回事実上のレベル上げが必要となる。そして、ストーリーが進むほど敵のステータスは一方的に上がっていく。

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▲いわゆる合成システム。ここにもRGBが関わる

そこで頼りになるのは、武器と防具の持ち込みシステムになる。武器と防具にもそれぞれRGBが設定されており、この数値を上げることで冒険を有利に進められるようになっている。が、実際は有利に進められるどころではなく、装備によるRGB数値の強化が必須である。

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▲階層ごとにRGBが変化する様は、潜入前に確認できる

RPGの特徴の1つとして、ステージが進むにつれ段階的に敵が強くなるという傾向が挙げられる。本作のストーリーは全30レイヤーで構成されており、後半になってくると武器や防具は持ち込まなければ攻略不可能になっている。ダンジョンで倒れるとRGBの数値はリセットされるものの、入手した武器や防具は消えないので、段階的に装備を強化して挑めばいつかクリアできるような設計になっている。

そして、本作はローグライクよりもダンジョンRPGとしての性質が強い。ゲームに不慣れでも、特別な戦略を考えなくてもなんとなくクリアできる。もちろんHardの攻略はなかなか難しいため、入念な準備と知識や経験が求められるだろう。

「色彩変化・ローグライク」が本作のジャンル

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本作のメインとなっている色彩変化は、残念ながらゲームシステムと上手く混ぜ合わさっていない。RGBによる三すくみや装備の強化、キャラや見た目変化など影響がないわけではないが、あまりにも関係性に乏しい。

例えばRGBの比率に応じて特定のアイテムを入手しやすくなったりモンスターの種類の出現割合が変わったりすれば、RGBをより意識してプレイできるだろう。階層ごとに色が固定されているため、RGBの数値変化で徐々に色が移り変わっていく様も楽しみにくい。能動的にRGBを調節できないせいで最終的にプレイヤーキャラは白くなる≒強くなるだけだ。あんまり色鮮やかになっても目がチカチカするだけだろうが、もう少し色彩変化の魅力を押し出しても良かったのではないか。

RGBという要素そのものは真新しく新鮮なものだが、それを上手くゲームに落とし込めているかは疑問だ。色彩変化、そしてローグライクという要素がそれぞれ独立して存在していると言わざるを得ないだろう。

完成されたシステムを模倣しないのは愚かである

何故ローグライクは売れないのか

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▲無慈悲な死。また1階からやり直し

ローグライクはマイナージャンルである。これはローグライク好きほど良く理解している。本邦におけるローグライクの金字塔とも言える『風来のシレン』シリーズでさえ、最新作が2010年に発売されて以降一切新作の発表がない。プレイヤーも、恐らくは製作者の方々も理解しているのだ。まあ、売れないだろうしな、と。

ローグライクが下火になってしまった要因はいくつか考えられるが、既にシステムが完成されすぎているという点について異論を挟むコアユーザーはいないだろう。元祖ローグライクの完成度の高さは、過度にアレンジされた後継作品を排斥する輩を排出する領域にまで達している。

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▲アイテムの数々。どう活かすかが攻略のカギ

勿論、システムが完成されているのは決して悪いことばかりではない。カレーが何と合わせても美味いように、余程常軌を逸した改変をしない限り、ローグライクとは最低限の品質は担保され続けるのだ。そして、時にはカツカレーやカレーうどんのような、元祖にはない味や支持を得ることがあるのも事実だ。

では、本作『虹のユグドラシル』は、ローグライクのアレンジレシピを提供したと言えるだろうか?

あまりにも不親切なボタン配置

虹のユグドラシル

▲何をするにも左右の操作説明書が必要

顔をしかめたのは、ボタン設計・説明の粗雑さだ。たった1ボタンの操作のためだけに、メイン画面からいちいち視線移動をしなければならない。プレイヤーはゲームをしたいのだ。ゲーム画面を見たいのだ。RGB彩られる世界を見てほしいと製作者も願っているはずだ。なのに何故、たった1ボタンの操作のためだけに、本当にどうして、都度説明書に目を向けなければならないのか。

本作が元々スマートフォンで配信された作品であることは筆者も承知している。実際のゲーム画面がスマートフォン準拠になっているのは百歩譲ろう。ならばこそ、何故ゲーム画面にボタン表記を設けなかったのか?ただ「はい/いいえ」の右下に小さく「A/B」の表記さえ置いてもらえれば、ゲームに没頭できるはずの改善を、なぜ画面外に置き没入感を阻害するのか?何を大げさなと言うかもしれない。そんなの操作を覚えてしまえばいいじゃないか、と思うかもしれない。それはごもっともな意見だ。

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しかし例えば上記の画像を見たとき、「NO/YES」が「B/A」、「Hard/Easy」が「Y/A」の選択制であることにどれほどの人間が気付けるだろうか。気づけなければ、左右を見渡して操作方法を確認しなければならない。これは、スマートフォンで「はい/いいえ」の選択肢を選ぶのに説明書を見て選択方法を確認する作業に等しい。画面上で完結しない操作方法が提供されるゲームを、果たして誰が快適と思うだろうか?

ちなみに、本作は携帯モードのタッチパネルでも操作できる。操作が分かりにくければ携帯モードで遊んでもいいが、であれば、筆者としてはスマホ版の購入をおすすめする。

劣悪な操作性から見えるリスペクトのなさ

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▲ワープ演出の長さも、なかなかクるものがある

ローグライクでは最早常識とさえ言える数々の要素が、特に操作面において明らかにリスペクトされていない。以下に羅列する。

・ダッシュがない
・当然、いわゆる「iダッシュ」もない
・ボタン長押しで素振りができない
・攻撃ボタン長押し状態だと移動操作を受け付けない
・キャラの方向転換時に隣接する敵を自動ロックしない
・キャラの方向転換時に補助線が引かれない
・ミニマップが存在しない
・アイテム取得時の動作演出カット設定がない
・いわゆる「足踏み」がない
・いわゆる「中断」がない
・いわゆる「見渡す」がない

往年の、そして近年のローグライクが苦心して実装してきた数々の操作面における工夫改善のほとんどは本作に反映されていない。そして厄介な古参ローグライクプレイヤーは20分も遊べば気付く。「ああ、製作者はあんまりローグライクを遊んだことがないんだろうな」と。もしくは、遊んだ上で操作面に重点を置かなかったか、やむなく切り捨てたか、Switchへの移植による操作感の変化に勘付けなかったか、と。

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▲右側、アイテムなどの詳細画面もひどい。詳細とは?

印システムの不在、仲間システムの不在、敵が斜め移動をしない、などローグライクでは最早常識とさえ言えるシステムの多くも欠落している。勿論、これらの要素が実装されていないローグライクは世の中に山程ある。しかし、前述の操作面における不備の多さから、「そもそもこれらの要素を製作者は知らないのではないか?」という疑念が生まれてしまっていることは否定できない。同名かつ同一の姿で異なるステータスの敵、敵味方常時発生しうるクリティカルなど、ローグライク経験者ほどムカ着火ファイアーしかねない要素まで盛り込まれている。

そろそろ面倒な偏屈ジジイの戯言という自覚が芽生えてきたのでこの辺りにしておく。しかしやはり、あまりにも、カレーの良さを活かせているとは思えない。

総評

虹のユグドラシル
少なくともプレイを通じて「面白い『ローグライク』を作ろう」という思いは感じられない作品である。ローグライクの文言に導かれたマイナージャンル愛好者諸君は、ダンジョンRPGという尾ヒレに冷水を浴びせられることを覚悟する必要があるだろう。

一方ダンジョンRPGとして見た場合には、RGBという独特なシステムこそあれ単純かつ簡素な作りになっており、プレイジャンルの垣根を超えるきっかけとして、新たな体験をもたらしてくれる一作となりうるかもしれない。そしてもし本作がローグライクへの興味の入り口となったのであれば、本レビューが酷な内容となったことを、この場を借りてお詫びする。

『虹のユグドラシル』のGame8スコア

Game8スコア

総合評価
4.7点/10
世界観 グラフィック ゲーム性
5.0/10 7.0/10 5.0/10
キャラクター
(ストーリー)
サウンド 快適さ
4.0/10 4.0/10 3.0/10

【総合評価】
編集部が話し合いによって決める参考値です。総合評価は10点満点となっており、10点=神ゲー、5点=普通、1点=致命的のように点数が高いほどより面白いゲームと言えます。
【6項目評価】
世界観:世界や設定の出来栄えの参考値
グラフィック:映像や背景の綺麗さの参考値
ゲーム性:戦闘や収集要素などの面白さの参考値
キャラクター:キャラたちの魅力、背景の参考値
サウンド:ボイスやSE、BGM等の参考値
快適さ:ロード時間や操作性、運営の更新性の参考値

みんなの評価

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製品情報

虹のユグドラシルMy Nintendo Store
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エルデンリングパッケージ
タイトル虹のユグドラシル
発売日2022527
開発元Otorakobo
対応機種
ジャンル
プレイ人数
CEROA

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