本作のタイトルを見て「うわっ」と思いつつも気になってしまい、不運にも本レビューを発見してしまった方々には、1つだけ覚えておいてほしいことがある。
本作はそのド直球なタイトルとは裏腹に、とても硬派なローグライクであるということを。
読了目安:5分程度(約4,700字) |
※本レビューは2022/04/09(金)に配信されたアーリーアクセス版の内容に基づいている。筆者は前作をプレイしているため、予測も込みで内容に触れている部分もあるが、あらかじめご了承いただきたい
▲ダンジョン内での1枚。魔物娘は敵とは限らない
タイトルから察せられる通り、本作は『魔物娘と不思議な冒険』の2作目にあたる。物語的なつながり具合はさておき、まずは簡単に本シリーズの特徴について簡単に紹介する。2作品目としてのレビューが気になる方は、次の項目まで飛ばしてもらって構わない。
本作のジャンルは、マス目上に区切られたダンジョンをターン制で進めていく「ローグライクRPG」だ。筆者のこだわりの関係で、本レビューでは「不思議ライク」と呼称させてもらう(『風来のシレン』シリーズなどが代表的な作品群)。
▲前作と比較して、仲魔システムが大幅にグレードアップ
いわゆる不思議ライクとして見た場合の大きな特徴は「仲間」システムを全面に押し出した作りがされているという点だ。ダンジョンに登場するモンスター、魔物娘はボスなど一部例外を除き味方として引き入れることが可能だ。誘うには特定のアイテムを渡したり特定の倒し方をしたりと個別の誘い方が必要で、一筋縄ではいかない場合も珍しくはない。
他にも敵対する魔物娘を「説得」することで戦闘を回避できたり、村で生活している様子が見られたり、とにかく仲魔という要素に重きがおかれている作品であることを理解してもらえれば、ひとまずは十分だ。
不思議ライク(ローグライク)というジャンルは、残念ながらマイナーである。このジャンルが好きでたまらない筆者ですらそう思う。倒れたら最初からやり直し、アイテムロスト、覚えなければならない無数のテクニック、初見ではまず対策できない敵スキルや罠、そして理不尽な死。これらの壁を乗り換えてこそのカタルシスがあると熱弁したくなる一方で、「一度の失敗で全てが水泡に帰す」ゲームバランスが敬遠されるのも無理はないだろう。
しかし上記のような、古臭いお約束を現代の価値観に合わせるようなアレンジが、本作では多く施されている。
▲闇市。法外な値段だがロストアイテムを取り戻せる
例えばアイテムロストについては、事前にホケンをかけておくことで簡単に取り戻すことができ、そうでなくとも倒れた際の所持品が闇市に流れ回収できるようになっている。モンスターの性能は図鑑から、状態異常や罠はヘルプから詳細を確認できる。1ターンの予備動作がある強力な攻撃は事前に範囲が表示されたり、アイテムや仲魔の持ち込みが可能なダンジョンが多かったり、条件を満たすことでダンジョンの途中からいきなり冒険を出発できたり、割と大胆な舵取りと感じる部分すらある。
▲ついつい読みたくなるチュートリアルの作り
シリーズ未経験者でも遊べるようにという配慮か、チュートリアルも丁寧だ。この手のチュートリアルやヘルプは皮肉にも初心者ほど見ないものと相場が決まっているが、「メタキツネ」による愛嬌あるガイドがそれを手助けしてくれている。
本作は決して生ぬるくはない。ただ、予測・推察・準備の手段が多く用意されている。不思議ライク経験者は勿論、魔物娘というジャンルに釣られた初心者でも楽しめるような配慮が随所にうかがえる。
▲いわゆる馬武者系。敵でも味方でも厄介な存在
不思議ライク愛好家の中には、いわゆるソロ攻略を貫き通す偏屈な方もいるだろう。魔物娘たちは強力かつ独特な能力を持つため攻略を有利に進めやすくなるが、色々な意味で魅力的な彼女たちと共闘せずにクリアすることも十分可能であることは伝えておきたい。実際、シリーズ経験者であればアーリーアクセス版の範囲で遊べるダンジョンは全て素潜りで制覇できてしまうだろう。
▲アーリーアクセス限定。本当に難しいダンジョンです
そして嬉しいことに、そんな熟練者でも満足できるようなアーリーアクセス版限定高難易度ダンジョンも用意されている。その配慮の仕方には筆者も思わず感心した。蛇足だが、筆者の力量ではしばらく素潜りクリアできる気がしない。
こちらは余談だが、シリーズ経験者に向けた話をすると、前作にはいわゆる「もっと不思議」が存在していた。本作でもその登場が期待される。
▲ねこまたの新旧比較。前作は前作で可愛いのがまた…
論より証拠である。かなり荒削りな見てくれの魔物娘たちが、PS1からPS2へ世代が移り変わったような、大幅なグラフィックの進化を経て生まれ変わった。前作と比較すると全体的に丸みを帯びているというか、優しい印象を受けるようになっている。画像では動いている様子を見せられないのが残念でならない。全体的に彼女たちの、特に腰の動きが、なんというか、“硬派”で大変よろしいとだけ言っておこう。
▲えっ!が可愛いメルト。筆者は最初誰だか分からなかった
グラフィック的な観点から前作のプレイをためらう人がいるかもしれないが、背景を知っていると楽しめるような気付きもある。本作のストーリーで行動を共にする魔王候補「メルト」も、前作の破廉恥な姿を知っていると、格好だけは一丁前になったものだと微笑ましく思えるだろう。
▲たまも姉さん。九尾系統がモチーフのメインキャラ
重要キャラだけではなく、敵として新たな見た目の魔物娘も多数いる。新登場の「ユキンコ」「ゾンビ」は仲魔にするための条件にクセがあり、特に強く印象に残った。
魔物娘の魅力は見た目だけにとどまらない。ダンジョンや村での会話、戦闘中のシームレスな台詞、休憩睡眠待機モーションなどの作り込み、アクセサリによる簡単な着せ替え、「見渡す」など、様々な形で彼女たちの人物像が確認できる。なくても困らない要素とは、世の中いくらでもある。しかし、ある意味どうでもいい部分にこそある魅力というのも、同様にいくらでもあるだろう。
▲本作より追加されたアクセサリ要素。かわいい
本作の面白い仕様として「見渡す」コマンドを紹介しておく。不思議ライク的な説明をすると、ダンジョンの部屋内の様子を隅々まで確認し戦略的優位に立てる仕組みである。要は理不尽な事故を防ぎやすいシステムだ。
ところが困ったことに、本作における見渡すコマンドは主人公の一人称視点で行われる。ゆえに部屋が広すぎると端から端まで確認できず、敵や壁などの遮蔽物があればその向こうも見えない。言葉で説明するとなんとも不便かつ謎の仕様だが、これには理由がある。
▲本作新登場のキキーモラ。勧誘方法にひとクセあり
見渡すシステムが一人称視点になったことで、魔物娘たちを間近で鑑賞できるようになるのだ。地獄のモンスターハウスも一転して絶景となりうる。これはこれで、いい。不思議ライク的にバッサリ言ってしまえばやはり不便なことに変わりはない。しかし、何故このような仕様を採用したのかという理由は容易に察することができる。
▲UI画像を設定できる。どんなコントローラーにも優しい
さて、以下では、「面白い不思議ライク(ローグライク)を作りたい」という製作者の思想が、プレイすればするほど実感できることを述べていきたい。製作者の不思議ライクへの知見が豊富であることをあらゆる局面で感じ取れるがゆえに、「見渡す」のような一見非合理的な仕様には納得ができてしまうという話だ。
不思議ライクは「一度の失敗で全てが水泡に帰す」という性質上、何度も繰り返しプレイすることになるゲームである。そのため最も重要なのは、ゲームテンポと言える。極端な例だが、格闘ゲームの対戦において最初のカウントダウンが3,2,1ではなく10,9,8…だったらどうだろう?1箇所にまとまった10個のアイテムを拾うのに10回ボタンを押す必要があったらどうだろう?ゲームテンポの良し悪しとはこういうことだ。ロード時間や暗転時間などもその1種に入る。
▲持ち込みなしでクリア、などの実績要素も完備
今でこそマイナーではあるものの、不思議ライク(ローグライク)は古くから存在するジャンルだ。その中で生み出されてきたであろう、ゲームテンポ改善のための先人の知恵と工夫が『魔物娘と不思議な冒険2』にはふんだんに取り込まれている。以下に羅列してみよう。
・いわゆる「iダッシュ」がある(感動) ・ボタン長押しで素振りが可能 ・自動振り向きがある ・風変わりな「見渡す」がある ・移動速度の設定がある ・レベルアップ時の演出スキップ設定がある ・アイテム取得時などの演出スキップ設定がある ・キーコンフィグに加え、画像設定までもができる |
「iダッシュ」は『風来のシレン2』で登場した超快適システムであるが、どういうわけか他作品はおろか後継作にも実装がされてこなかった要素である。アイテム取得の演出カットは、かつて『トルネコの大冒険3』など不思議ライクの3D化に伴ってあらわとなった致命的なテンポロスに対するアプローチの1つだろう。
▲スキルを学べる新システム。手間と時間はかかる
本作の根幹である「仲間」システムそのものは、複数のリソース管理や状況判断を求められるがために、実際のところどうしてもテンポロスに結びつきやすい。これは不思議ライクそのものが抱え続けている課題であり、「仲間」の奥深さと快適さを両立できている作品は、恐らくない。
であるからこそ、その他の要素については徹底してプレイ体験の向上を図るべきであると考えたのかもしれない。だとすると、その目論見は成功している。それは、「仲魔」の魅力を追及した側の作品として。
前作と比較して、飛躍的に向上したビジュアルで描かれる魔物娘からは色々な意味で目を離せなくなった。純粋な不思議ライクとしての真新しさには欠けると感じてしまうのも、前作の時点で十分すぎるほど完成されていたからに他ならない。地味ながらも確実にプレイ体験の向上につながる細かな改善が多く施された作品であり、ローグライクファンも存分に楽しめる内容になっている。
さて、筆者としては、今のうちに前作『魔物娘と不思議な冒険~力の宝珠と帰還の塔~』をプレイしておくことをおすすめする。さすれば、本作で生まれ変わった魔物娘たちとの出会いがより一層楽しめるはずである。
総合評価 | ||
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7.5点/10 | ||
世界観 | グラフィック | ゲーム性 |
7.0/10 | 7.0/10 | 9.5/10 |
キャラクター (ストーリー) |
サウンド | 快適さ |
8.0/10 | 5.0/10 | 8.5/10 |
【総合評価】 編集部が話し合いによって決める参考値です。総合評価は10点満点となっており、10点=神ゲー、5点=普通、1点=致命的のように点数が高いほどより面白いゲームと言えます。 【6項目評価】 世界観:世界や設定の出来栄えの参考値 グラフィック:映像や背景の綺麗さの参考値 ゲーム性:戦闘や収集要素などの面白さの参考値 キャラクター:キャラたちの魅力、背景の参考値 サウンド:ボイスやSE、BGM等の参考値 快適さ:ロード時間や操作性、運営の更新性の参考値 |
Steam | DLSite |
タイトル | 魔物娘と不思議な冒険2 |
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発売日 | 2022527 |
開発元 | NEKOTOKAGE GAMES |
対応機種 | |
ジャンル | |
プレイ人数 | |
CERO | B |
『魔物娘と不思議な冒険2』評価レビュー|タイトルとは裏腹な、硬派なローグライク【アーリーアクセス版】