2024年8月に『KRAFTON』が事業を引き継ぎゲーム開発スタジオを再稼働させた『Tango Gameworks』。数々の名作を生み出してきたスタジオの再稼働に、歓喜した方やワクワクしている方、新作ゲームのリリースを楽しみにしている方が多いと思う。そんな『Tango Gameworks』のメンバーにゲームエイトライターが直撃インタビューを行ってきた。この記事ではスタジオ再稼働までの経緯や今後のゲーム作りについて、さらに会社の雰囲気も聞いてきたので、ぜひ最後までチェックしてみてほしい。
自己紹介
コリン・マック氏(以下、コリン氏):コリン・マックと申します。ゲーム業界に入る前は5年ほど普通の仕事をしていて、グラフィックのプログラミングに興味があってゲーム業界に入り、30年ほど務めています。最初は小さなゲーム開発会社に入社して、スタジオ開発からパブリッシングまで色々な業務に携わりながら、日本とアメリカを行ったり来たりしていました。今後は『Tango Gameworks』の代表を務める予定です。
『Tango Gameworks』とは、以前の職場でエグゼクティブプロデューサーとして働いている時にやり取りをしていて、2023年にスカウトされました。
ジョン・ジョハナス氏(以下、ジョン氏):ジョン・ジョハナスと申します。2010年に『Tango Gameworks』の開発者として入社して14年ほど勤めています。「サイコブレイク」の開発を担当したり、「サイコブレイク2」や「Hi-Fi RUSH」ではディレクターを担当しました。
これからは『Tango Gameworks』でクリエイティブディレクターを担当します。一つのプロダクトだけではなく、全体のクリエイティブ部分を確認していきます。
江頭和明氏(以下、江頭氏):江頭和明と申します。『Tango Gameworks』には2020年の1月に入社して、プロジェクトマネージャーとして「Hi-Fi RUSH」のプロジェクトマネジメントをリリースまで担当していました。
現在はディベロップメントディレクターを担当しており、開発・従業員への内省整備や職場環境の整備に尽力しています。
スタジオ再稼働までの経緯や苦労したことに迫る
―2024年8月に事業を継承してゲーム開発を再稼働されたと思います。現在はどのような活動を行っているのでしょうか。差し支えない範囲で業務内容なども教えていただけますか。
コリン氏:基本的に『Tango Gameworks』が閉鎖する前のプロジェクトや開発スタイルを継承しています。現在はオフィスやIP周りを整備・準備している最中で、開発環境の復旧・回復をしている段階です。閉鎖前と大きく変わらないように復旧していく予定です。
―具体的にどのように整備・準備をしているのでしょうか。
コリン氏:例えば、オフィスのリース契約や『KRAFTON』と「Hi-Fi RUSH」のデータのやり取りなどをしています。基本的な開発環境を整備しながら、出来る限り開発者同士の話し合いや今後の計画作りをしています。
―ゲーム開発の基盤を作っている状況なんですね。特に苦労したことや大変だったエピソードを教えていただけますか。
コリン氏:最初は『KRAFTON』と一緒にゲーム開発することが決まっても、以前と同じレベルの環境を準備するには時間がかかります。メンバー全員がゲームを作りたいと心から思っているので、いつ開発環境が整うのかが苦労している部分ですね。
ここ半年の話だと、法律のことで膨大な時間がかかったことですかね(笑)
―ゲーム作りにはかなり時間がかかりますよね。
江頭氏:開発メンバーには、ジョンを中心にコミュニケーションを取ったり、次のプロジェクトやクリエイティブのビジョンを共有し合ったりしてモチベーションを高めてもらっています。現在は環境面や法的な部分に時間がかかっているので『KRAFTON』が迅速に対応してくれています。頼りがいがあって嬉しいのですが、超えられない壁があった時には、メンバーに事情を説明する必要が出てきます。
その中で開発者のできることは、面白いゲームを世の中に届けることだと思っているので、そのためにどうコミュニケーションを取るとか、どう意識共有するのかという部分を日々模索するのが大変です。今は我慢の時期だと思っているので、来年や再来年に繋がればと思っています。
なぜ『KRAFTON』とゲーム作りを?「Tango」ならではのゲームを送り出せる環境がポイント
―なぜ『KRAFTON』と一緒にゲーム開発をする流れになったのか、経緯を教えていただけますか。
コリン氏:色々な会社と話し合いをしている中で、『KRAFTON』は特に日時を決定するのが早かったです。参加するメンバーもビジネス系の人たちで最初は心配していましたが、ゲームが好きな人ばかりで嬉しかったんです。
固いミーティングではなくゲームを見てくれて、紹介した時に一番喜んでくれたのが『KRAFTON』でした。ゲームが好きな気持ちがダイレクトに伝わってきたので、合うかもしれないと思ったのがきっかけです。
もちろんビジネスも大切なのですが、開発スタジオの立場から見ると同じ志を持っているパブリッシャーだったので嬉しかったです。
―クリエイターには嬉しい話ですね!ゲーム好きなのも大切ですよね。
コリン氏:もう一つは、スピーディーに物事を決定してくれるのも嬉しかったです。弊社の場合は、急に閉鎖になってしまい新しいパートナーを探す時間がありませんでした。最初は色々な会社が興味を持ってくれたのですが、時間の関係で無理になることがありました。
普通なら大規模な話なので、半年か一年間ほど交渉を経て決定するのですが、急ピッチで動いてくれたのも大きかったですね。
―『KRAFTON』もすごい決断力ですね!やっぱりスピードって大事ですよね。
コリン氏:この速さは韓国の文化があると思うのですが、クリエイターを大事にしたい気持ちがあったからこそ、決定してくれたと思います。クリエイターを守りたい気持ちが伝わってきてすごく嬉しかったです。
―ただのパートナーではなく、親身になって考えてくれるのは嬉しいですよね。「Hi-Fi RUSH」のようなオリジナルIPにも期待しています!
コリン氏:『KRAFTON』は今までの結果を見て『Tango Gameworks』は新しいアイディアを出すのが強みだと理解してくれており、今後も新規IPやオリジナルタイトルを出してほしいと言ってくれているので期待してください!
―差し支えのない範囲で思い描いているオリジナルIPについて教えていただくことはできますか…。
ジョン氏:それはシークレットです(笑)しかし、『Tango Gameworks』ならではのゲームをユーザーさんに感じていただければと思っています。『Tango Gameworks』のDNAが『KRAFTON』に入ったからと言って変わることはありません。今までのファンの方が好きなゲームや新しい体験、ユニーク性を出したゲームを開発していくので、期待して待っていただければと思います。
―楽しみにしています!
各メンバーが考える面白いゲーム作りとは?ゲーマー必見の内容に!
―みなさんが思い描いている面白いゲームはどのようなゲームなのでしょうか。
ジョン氏:僕はゲームの世界に没入できるか、ハマっているかですね。ゲームのプレイ中にゲームのことしか考えられていない状態が続くことが、面白いゲームだと思っています。ほぼ100%意識がゲームに向いている状態ですね。
なので我々が作った世界観にハマってくれることが、個人的に一番嬉しいですね。ハマるきっかけも人によって違って、「サイコブレイク」の場合だと世界観にハマる方もいれば、シューティングにハマる方もいるのがポイントです。ハマる場所は人それぞれだと思うので、どこかにハマれば面白いゲームだと思います。
ただ、ハマりすぎると悪いこともあるかもしれませんが…デートやお店の予約に遅れたり、仕事中にゲームをしちゃったり…。全部僕の例になりますが…(笑)
一同:(笑)
コリン氏:僕は瞬間的な楽しいという感情が大切だと思っています。ストーリーや設定、雰囲気よりも最初にプレイして楽しいと感じることが一番だと思います。
あとは、今まで見たことのないゲームや想像したことのない内容のゲームに、昔からあるシステムが入っていると嬉しいですね。ゼロから新しいシステムを覚えるのは面倒臭いけど、新しいものに昔からあるゲーム性が組み込まれているゲームが好きです。
江頭氏:僕はジョンと似ているかもしれませんが、プレイ後に「やってよかった!」と思えるゲームが面白いと思っています。ゲームは開発に時間がかかるのですが、プレイする側もお金や時間を投下しないといけないエンタメです。その中で10時間、20時間と遊んで「このゲームはなんだったんだろう…」と感じられたら、その人にとっては面白くないゲームになってしまいます。
良かったと思ってくれるのはユーザーさん次第なのでコントロールできないのですが、少なくとも『Tango Gameworks』のゲームに触れてくれた人には「遊んで良かったな!」と思ってもらえるように、リターンがあるように作っていきたいですね。
―僕もゲーマーなのでめちゃくちゃ共感できる部分があります!
ゲームを作りたいという想いが必須!ユーザーファーストの考えが面白いゲームへのキーワード
―今後、ゲーム開発に向けて新たな仲間を募集しているとお聞きしました。新しいメンバーを募集する背景や経緯なども教えていただけますか。
江頭氏:2024年5月にスタジオを閉鎖する中で現状の『Tango Gameworks』のメンバーの中に、新しい道を歩んでいくメンバーもいました。その中で、引き続き『Tango Gameworks』らしい開発を進めるためには、リソースの確保や補填をしないといけなかったので、どこから人を採用するのが正しいのか、開発がスムーズに進むのかを算出して『KRAFTON』の協力のもと採用活動をしています。
―どのような方が『Tango Gameworks』に向いていると思いますか。
コリン氏:一番はゲームが好きで、クリエイターの心を持っている人ですね。自分のアイデアを実現したり、チーム同士の連携をうまくできる人です。あとは、自分が作ったものに自信がある方や責任感を持てる方が望ましいですね。
例えば、『Tango Gameworks』にはクリエイターが多いのですが、ゲームを作る時にディレクターが意見を出しているだけではなく、チーム全体のことを考えたものや自分が面白いと思うものを提案できる方が合うと思います。
―技術的にはどのような方を募集しているのでしょうか。
江頭氏:募集に関しましては、幅広くレンジを設けている感じです。キャラクターアーティストを担えるメンバーも求めていますし、システムプログラマーやアプリケーションのエンジニアを含めて支えてくれるメンバーも求めてます。
ジョン氏:ディレクターとして上から命令をしたくないので、方針を決めて自分の頼まれたタスクを面白くすることや、自分の心をゲームに入れられるかを大切にしています。思い描いているものを実現させるには一人ではできないので、他メンバーと話しながら一緒にゲームを作りたいですね。
一番困るのは、誰にも話さずに自分だけで一生懸命作っていて、周りが知らない場合や方針に合わない場合なので、コミュニケーションがすごく大切だと思っています。ディレクターでも一緒に見たり作ったり、遊んだりしてゲームを育てていくので、常にコミュニケーションは取りたいです。
あとは、自分の意見もどんどん発信してもらいたいです。全部の意見を反映できないのですが、良いものは良い、ダメなものはダメと言ってもらいたいです。ゲームを作っていく上で壁はないので、気軽に発信してもらえると嬉しいですね。
―ゲームが好きでコミュニケーションが得意な方、自分の意見がはっきり言える方が向いている感じですね。
コリン氏:もう一つは自分の自慢のためだけではなく、ユーザーさんのことを第一に考えるクリエイターを募集しています。個人的に面白いと感じるのも大切なのですが、ユーザーさんにどう思われるかも非常に重要になってきます。
自慢のゲームを作ったけど、ユーザーさんが置いてきぼりになることもあります。クリエイティブ性を出してほしい気持ちはあるのですが、ゲームをプレイするのはユーザーさんなのでユーザーファーストの気持ちが必要ですね。
クリエイターとして成長できる環境!大切なのは誰が何をしているのか明確にすること
―『Tango Gameworks』の魅力や制度、社内の雰囲気などを教えていただいてもいいですか。
コリン氏:まずはクリエイターとして成長できる環境が整っています。もちろん自分の仕事をやらないといけないのですが、将来のことを考えて、よりクリエイティブ性を出しながら成長できる環境だと思います。もともとスタジオの文化として、将来のクリエイターを育てていきたい思いもあります。
あとは、パブリッシャーの『KRAFTON』から指示されてゲームを作る環境ではないです。また、『Tango Gameworks』では開発スタジオから作りたいゲームを提案して開発を行っていくため、その点でもクリエイターが成長できる魅力があると思います。
ジョン氏:最近のゲームは大人数で作るので、ゲーム全体に関わっている感覚がなくなりがちですが、『Tango Gameworks』では全体に関わっている感覚を体感できると思います。メンバー全員の名前を知っているとか、どの部分を担当しているのか分かるようにしており、チーム間の関係を大切にしています。そうしないと信頼関係が築けないので、どのメンバーにも迷わずに作業を頼める環境を目指していますね。
―めちゃくちゃ良い環境が整っていますね!距離が近いと安心して仕事できますからね。仕事上で大切にしていることはありますか。
江頭氏:作るものに合わせた規模、管理スタイルがあっていいと思っています。その中で『Tango Gameworks』が大事にしているのは、ユーザーさんに刺さるものや届きやすいものに色を付けて出したいと考えています。色をどうやって出すかが重要で、メンバーのファッションだったり、クリエイターとしてのエゴを良い形で組み合わせないと良い色にはなってきません。
例えば、Aさんは何を担当している人なのか組織内で分からないとか、どのようなスキルを持っている人なのか分からないと、Aさんの成果がゲーム内で見えない、周りが理解できない環境になってしまいます。そうではなく、Aさんの担当していることや得意、不得意なことを知ることで、お互い良い関係性が作れてよりチームらしくなると思います。
その結果、『Tango Gameworks』らしいゲームができるような距離感が大切です。プロフェッショナルとしてユーザーさんのために仕上げるけど、クリエイターのエゴも満たすバランスが魅力だと思うので、興味を持ってくれるクリエイターの方にも我々の船に乗ってみてほしいですね。
―ちなみに国籍の制限とかありますか。
江頭氏:国籍に関しての縛りはないですね。ただ日本のスタジオで開発をしているので、言語は日本語で日本国内に住んでいる方が対象です。仕事は出社とリモートの両方を取り入れたハイブリッドでやっているので、住んでいる地域の縛りもなく、北海道や沖縄の方でも大丈夫です!出社時のフットワーク次第によりますけど…(笑)
新作のリリースを心待ちにしている読者に一言
―最後に『Tango Gameworks』の新作ゲームを楽しみにしているファンの方々に一言お願いします。
コリン氏:現時点で具体的なプロジェクトを発表できませんが、「Hi-Fi RUSH」のIPを大切にしたいと考えています。それ以外も『Tango Gameworks』の目標で新しい挑戦をしたいと掲げているので、期待して待っていただけると嬉しいです。あとはファンの中で開発者がいましたら、これから新しい仲間を募集しますのでよろしくお願いします(笑)
ジョン氏:『Tango Gameworks』の閉鎖から復活したという言葉をよく使っているのですが、復活したからと言って心が消えているわけではないので、今まで作っているゲームのDNAが残っています。実際に大半のメンバーがそのまま移籍しているので、「Tangoイズム」を残しながらゲーム作りをしていきます。
次のゲームは『Tango Gameworks』ファンだったら絶対に楽しめるし、ファンじゃない方にも新しい楽しみを届けられると思っていますので、ぜひ期待して待っていてください!
江頭氏:『Tango Gameworks』に向けて様々な声が届いているのを見ていて、サポーティブな意見が多くて嬉しいです。だからこそ、開発者として決して楽ではないゲーム開発をこれまで頑張れたし、これからも頑張っていけると思っているので、いただいた声や愛に対してお返ししていきたいです。みなさんの声が『Tango Gameworks』の新しい出発の一番のモチベーションになってるので、今後も期待してください!
―ありがとうございました!
『KRAFTON』の概要
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[取材協力]:KRAFTON、Tango Gameworks
(編集・執筆/ゲーム山本)