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リネージュ2の歴史・神話について掲載しています。リネージュ2の世界観について深く知りたい方はぜひ、読んでみてください。
男は深く煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。煙草のかすかな明かりでは、その表情を読み取ることはできなかった。顔の大部分は古びた厚手のフードに隠れて見えず、男の背後には深い闇があるだけだった。
男には老兵とペテン師の雰囲気があった。男は自分を吟遊詩人だと言ったが、その声は太くしわがれていて、誰ひとりとしてその話を信じる者はなかった。また、危険に満ちた森の中をたったひとりで旅してきたというのも疑わしく思われた。
男は「物語を聞かせるから、食べものを分け、たき火にあたらせてくれないか」と言った。この旅人を寒い森へと追い立てるようなことはできず、男の話を聞くことにした。たき火のそばでくつろぎながら、それでも武器は手放さずに、男が話し始めるの待った。
その夜は凍てつくように寒く、ようやく煙草を吸い終えた男が話し始めると、その低く太い声は静かに山の彼方へと運ばれていくのだった。
創世記・目次 |
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創世記・プロローグ |
1.神々の誕生 |
2.グランカインの子孫 |
3.巨人の奴隷 |
4.死の女神、シーレン |
5.大洪水とエヴァ |
6.巨人の欺瞞 |
7.神々の怒り |
8.巨人の滅亡 |
9.たき火のそばで... 種族対立のプロローグ |
はるか遠い昔、この世にはたった1つの球体だけが存在し、あらゆるものがその中で混ざり合っていた。その球体がこの世のすべてであった。
1億年以上の歳月をかけて球体は次第に大きくなり、やがてその中で2つの力がゆっくりと形成され始めた。成長とともに2つの力には意識と自我がめばえ始め、ついには光と闇へと分裂をはたした。
白い光は女性になって、アインハザードを名乗り、黒い光は男性となり、グランカインを名乗った。この2つの存在が、全宇宙と今日知られる万物の始まりである。
アインハザードとグランカインは力を合わせて球体の外へと飛び出し、このとき砕けた球体の破片がさまざまに姿を変えていった。上に飛び散った破片は空となり、下に飛び散った破片は地を形成した。 空と地の間には水ができ、地の一部は盛り上がって大地をつくった。
球体の精神も球体とともに砕け散り、さまざまな動植物を生むこととなった。この精神から生まれた生き物の中で最も優れたものが、巨人であった。巨人には強靭な肉体とそれに劣らない高い知性が備わっていたため、賢者とも呼ばれた。アインハザードとグランカインは、巨人をすべての生き物の長とした。こうして巨人は大陸を支配して繁栄することになった。
アインハザードとグランカインは、多くの子をもうけた。そして、最初の5人の子供たちには地上を支配する力が授けられた。
1番上の娘、シーレンは水を支配した。1番上の息子ファアグリオは火を、2番目の娘マーブルは大地を支配した。2番目の息子サイハは風を支配することとなった。
次のエヴァのときにはもう何も残っていなかったので、エヴァは詩と音楽をつくった。他の4人がそれぞれの役目を果たしている間、エヴァは詩を書き、それに音楽をつけて歌った。
アインハザードは創造の神であった。自分の精神から体を作り出し、子供たちの力を借りてその体に命を吹き込んだ。
シーレンには水の精神を吹き込んだ。これがエルフ族の起源である。
ファアグリオには火の精神を吹き込んだ。これがオーク族の起源である。
マーブルには土の精神を吹き込んだ。これがドワーフ族の起源である。
サイハは風の精神を吹き込んだ。これがアルテイア族の起源である。
グランカインは破壊の神であった。グランカインはアインハザードの行いを見て、好奇心に駆られるとともにねたみを感じた。
そして、アインハザードをまねて自分とそっくりな体を作りあげ、長女であるシーレンに、精神を吹き込むよう頼みに行った。シーレンは非常に驚き、グランカインにこう言った。
「お父様、どうしてそのようなことをなさろうとするのですか。創造はお母様のなさることです。ご自分の役割以外のことをむやみになさらないほうがよろしいのではないでしょうか。破壊の神から命を授かる生き物は、災いの種になります。」
しかしグランカインは引き下がらず、何度も説得しうまく丸め込んで、最後にはシーレンの同意を得ることに成功した。
「わかりました。でも、水の精神はお母様にさしあげてしまったので、お父様には残りのものしかお渡しすることができません。」そう言ってシーレンは「よどんで腐った水の精神」をグランカインに差し出し、グランカインは喜んでこれを受け取った。
しかし、グランカインは自分の創造物に1つの精神を吹き込むだけでは満足せず、次に長男のファアグリオのもとを訪れた。「父上のされていることは正くありません。どうか考え直してください。」そう言いながらも、ファアグリオもグランカインに逆らうことはできず、「消えかけの火の精神」を差し出した。グランカインは喜んでこれを受け取った。
マーブルも涙ながらに父に懇願したが、結局は「不毛の汚れた土の精神」を与えてしまった。そしてサイハもまた「激しく荒い風の精神」を父に差し出すこととなった。グランカインは大満足ですべてを持ち帰った。
「この私の創造物を見よ。水の精神、火の精神、土の精神、風の精神を授かり誕生する姿を見るがよい。巨人などよりも力強く、そして賢い者となるだろう。この者たちが世界を支配するのだ。」
グランカインは全世界に向かって誇り高く叫ぶと、自らと同じ姿をした創造物に精神を吹き込んだ。ところが、生まれてきたものはまったくの役立たずであった。ひ弱で、愚かで、ずるがしこい、臆病な生き物だったのである。
他の神々は皆一様に、グランカインとその創造物をさげすんだ。そしてグランカインは、恥ずかしさのあまり、自分の創造物を捨て逃げ出してしまった。彼の創造物は、人間と呼ばれた。
エルフは賢く、魔法の使い方を知っていた。しかし、彼らも巨人ほどの知恵は持っておらず、巨人たちの指示で政治と魔法を担当することとなった。
オークには力があった。疲れを知らない体力と強靭な精神力を持っていた。しかし、巨人たちにはかなわず、戦争と治安を担当することとなった。
ドワーフには優れた技巧があった。計算が得意で、細かな細工に長けていた。そこで巨人たちは、ドワーフを銀行業と製造業に従事させた。
自由を愛する種族、アルテイアは尽きない好奇心とどこへでも飛べる翼を持ち、縛られることを嫌った。巨人たちはこの奔放な種族を捕らえて服従させようとしたが、アルテイアは鳥かごに入れられるとすぐに弱って死んでしまったため、結局は再び開放することにした。
その後、アルテイアは自由に世界中を飛び回り、時折巨人の都市を訪れては各地のできごとを巨人たちに知らせるようになった。
人間は何をやってもうまくできなかった。巨人たちは人間の使い道に頭を悩ませ、結局巨人の奴隷として、あらゆる卑しい仕事をさせることにした。その頃の人間の暮らしは動物と大差のないものであった。
グランカインは自由奔放な神であった。自分の娘シーレンを誘惑するという大きな過ちも犯してしまった。シーレンはグランカインの子を身ごもった。このことを知ったアインハザードは激怒して、シーレンから水の女神としての地位を剥奪し、大陸から追放するよう命じた。
シーレンは、身重の体で東方へとのがれて行った。それから間もなく、彼女は暗い森の奥深くで出産した。激しい痛みに耐えながら、シーレンはアインハザードとグランカインを呪い続けた。
苦しみの果てに産み落とされた子供たちは、シーレンの呪い、絶望、怒りを受け継ぎ、成長とともに神に抗う鬼神となっていった。 鬼神の中で最も強いものは「ドラゴン」と呼ばれた。
ドラゴンは全部で6匹で、アインハザードを含めた6人の神々に対する呪いとともに生まれてきた。神々の戦争が勃発したのだ。最強のドラゴンは、鬼神の軍隊の最前線で神と戦うことを命じられた。
これを聞いた、光のドラゴンであるアウラキリアは、悲しげな眼差しでシーレンに言った。
「お母様。ご自分がなさろうとしていることをわかっていらっしゃるのですか。本当に神々を滅ぼしたいとお望みですか。本当にご自分のお父様やお母様、ご兄弟が血の海に沈むことをお望みですか。」
しかし、アウラキリアの訴えもシーレンの決意を変えることはできなかった。そして、ついに鬼神たちは神々が住む宮殿に攻め込み、し烈な戦いが開始された。6匹のドラゴンの攻撃は特に激しく、神の宮殿をことごとく破壊していった。
ドラゴンの恐るべき力には、神々でさえも圧倒された。形勢はほぼ互角で、戦いは永遠に続くかのように思われた。もしこの戦争が終わっていなければ、この世は終末を迎え、すべての生命が死に絶えていたことだろう。
多くの神の使者や鬼神が命を落とし、消えていった。毎日のように雷鳴が轟き、稲妻が空を切り裂いた。強力な軍隊が天空で激しくぶつかり合い、巨人やその他地上の生き物は震えおののいて、怯えながらそのようすを見守っていた。
こうしたし烈な戦いが何年も続いた後、ついに均衡が破れ形勢は次第に一方に傾き始めた。アインハザードとグランカインが多くの痛手を負いながらも、その強い力で多くの鬼神を滅ぼしていったのだ。
ドラゴンたちは深く傷つきながらも勇敢に神々に立ち向かっていったが、次第に疲労が色濃くなっていった。やがてシーレンの軍隊が壊滅状態になり、戦争は終結へと向かっていった。
そしてついに、ドラゴンたちはその翼を広げて地上へと逃げ出し、生き残った鬼神たちもつぎつぎとそれに続いていった。神々は鬼神たちの皆殺しを望んだが、自らも傷を負っていたため、逃げていく敵をただ見ているほかなかった。
子供たちがつぎつぎに倒れ、戦いに敗れると、シーレンはその悲しみに耐えることができなくなり、「死」を生み出して、その世界を支配した。グランカインも、シーレンのため、そして死の運命に直面しなければならないすべての生き物のために死の世界へと入っていったのだった。これが死の起源となる。
シーレンが去った後、末娘のエヴァが水を支配する力を受け継いでいた。
しかし、元々臆病な性格のエヴァは、姉の壮絶な死と神々の戦いを見てことさら恐怖心を強めていった。重い責任から逃れるために、エヴァは湖の底にトンネルを掘り、その中に隠れて過ごした。
支配するものがいなくなってしまったため、大陸を囲む水の精霊はどうすればよいかわからなくなり、あてもなくさまよい始めた。ある場所では、大量の水が流れ込み沼地になった。また別の場所では水がまったく流れて来なくなって砂漠ができた。
さらに、あちこちで大陸の一部が突然海の底に沈んだり、何もないところから新しい島が出現した。場所によっては、夜となく昼となく雨が降り続き、高い山の頂を残してすべてが水没してしまうところもあった。
水没をまぬがれた陸地には、すべての生き物が自らの命を守るために群がり、大混乱をまねいていった。陸上でも、海中でも、あらゆる生き物がこの天変地異に苦しんでいた。
すべての生き物を代表する巨人が神々のもとに赴き嘆願した。神々ももはやこの状況には我慢がならなくなっていた。アインハザードとグランカインは大陸中を探し回り、ようやくエヴァが隠れている湖を見つけ出した。
「エヴァ、お前が自分の責任を放棄したためにどういうことになっているのか、よく見なさい。お前は私たちが作り上げたこの大陸の調和を壊しているのですよ。いつまでも逆らい続けるのなら、容赦はしません。」
アインハザードの怒りは激しく、その目には炎が燃えあがっていた。洪水によって、数え切れないほどの巨人やその他の生き物がシーレンの世界へと旅立って行った。そのため、アインハザードはシーレンのことをとても妬んでいたのだ。
エヴァはふるえあがり、母であるアインハザードに従った。エヴァが再び水を治め始めると、水の災害は起こったときと同様に次第におさまりをみせていった。しかし、一度荒廃してしまった大陸を元に戻すことはもはや不可能になっていた。
神々の度重なる失敗によって、巨人たちの心の中に疑問が生まれ始めていた。グランカインは、人間という程度の低い生き物を創り出したことで、すでにその愚かさをさらけ出していた。グランカインの淫らな振る舞いとアインハザードの嫉妬から死が作り出され、さまざまな鬼神が生まれることとなった。さらに、エヴァが弱く力がなかったために、大陸は荒れ放題になってしまった。巨人たちの心の中で疑問の種がめばえ始めていた。
「あのような神々を崇拝する価値があるのか。」
巨人たちが次第に力を持つようになると、この考えはどんどん大きくなっていった。巨人たちは自ら作った馬車に乗り、神々の宮殿に自由に出入りできるようになった。
また魔法を使って島を持ち上げたり、神々のように空中で生活できるようになった。さらに、永遠に生きることができるかと思われるほど、寿命を延ばすことができるようになった。
そしてついには、巨人たちは自分の力が神に匹敵すると考え始めたのである。聡明であったにもかかわらず、巨人たちはたいへん傲慢になり、神になろうとさえしていた。
そして、生き物を組み合わせて、独自の生命体を作り始めた。巨人たちは、このような奇跡を可能にする魔法を「科学」と呼んだ。
自分たちの絶大な力に酔いしれた巨人たちは傲慢になり、とうとう神々を退けてその地位を奪おうとした。
神々と戦うために、巨人たちは強力な軍隊を組織し始めたのだ。
神々も何もせずに手をこまねいていたわけではない。特にアインハザードは、自分だけが持つ生命を創造する権利と能力に対して挑戦を受けたのだ。
アインハザードは怒りのあまり言葉を失った。そしてアインハザードに近づこうとする ものは皆、彼女から発せられる怒りの炎に包まれて跡形もなく溶けてしまった。アインハザードの怒りは頂点に達し、巨人を大陸や世界もろとも絶滅させることを宣言した。
グランカインがアインハザードのもとに急ぎ、彼女をいさめたが、同じ神であるグランカインでさえ彼女を取り巻く炎のために近づくことはできず、ただ遠くから叫ぶことしかできなかった。
「お前は創造の母であり、破壊は私の役目だ。私がお前の領域に踏み込んだときにどんな目に逢ったか、お前もよく知っているだろう。私が巨人たちの傲慢な行いに罰を与えるから、お前は落ち着くのだ。それでも世界を滅ぼそうとするのなら、私はあらゆる手を使ってお前を止めなければならない。」
グランカインは、何としても大陸の破壊は食い止めたかった。一方、アインハザードは、グランカインが邪魔をしたことでますます腹を立ててしまった。
しかしグランカインもアインハザードも立場が同じであったため、アインハザードはグランカインを抑えることができず、最後には説得に応じた。
アインハザードは巨人たちを罰するために、グランカインの武器である星の槌を借りることにした。この槌は終末の槌とも絶望の槌とも呼ばれている。その破壊力は絶大であるため、グランカインでさえその武器を使ったことはなかった。アインハザードはその槌を高く振り上げると、巨人の都市の中心めがけて振り下ろした。
空から巨大な真紅の火の玉が落ちてくるのを見て、巨人たちははじめて自分たちがとんでもない過ちを犯したことに気がついた。
巨人たちは持てる力をすべて出して、振り下ろされた槌から身を守ろうとした。しかし、巨人の強大な力をもってしても、槌の方向をほんの少しずらすのが精一杯だった。
槌は巨人たちの都市をかすめて地に落ちたが、それでもこの上なく繁栄した都市を破壊するには十分であった。
またたく間に、無数の巨人や他の種族の生き物はどろどろに溶けてしまった。大陸には大きな穴があき、瓦礫が激しく降り注いだ。ほとんどの巨人は死を迎えた。
なんとか生き残った巨人たちも、アインハザードの怒りを避けるために東方へと逃れて行った。巨人たちは以前シーレンが通ったのと同じような道をたどった。アインハザードは巨人たちを追い続け、稲妻でつぎつぎに焼き殺していった。
恐れに震えながら、巨人たちはグランカインに嘆願した。
「グランカインよ、グランカイン。私たちは自分たちの過ちに気付きました。アインハザードを止められるのはあなただけです。アインハザードは怒りで我を忘れています。私たちはあなたがたと同じ場所で生まれました。そして大陸で最も賢く、強い生き物だったのです。どうか私たちを滅ぼさせないでください。」
グランカインは寛大な神であった。巨人たちは既にその罪を十分に償ったと考え、南洋の最も深いところから水を持ち上げて、巨人たちに追い付こうとするアインハザードをさえぎった。 アインハザードは怒りのあまり叫んだ。
「何をするのだ。どうして私の邪魔をする。愛しい娘、エヴァよ。行く手をはばむ水を今すぐ退かせなさい。さもなければ、お前も姉と同じ運命をたどることになるぞ。」
エヴァはアインハザードを恐れ、すぐに水を海へと戻した。アインハザードは再び巨人たちを追いかけ、1人また1人と殺していった。巨人たちは再びグランカインに泣きついた。
「グランカインよ。偉大なる我らが神よ。アインハザードはまだ私たちを追ってきます。私たちを1人残らず消し去るつもりです。どうか私たちの身を守り、助けてください。」
グランカインは巨人たちが立っている大地を持ち上げた。巨人たちを血眼になって追いかけていたアインハザードは、突然、巨大な岩の壁に行く手をさえぎられた。アインハザードは叫んだ。
「私の娘たちは皆、敵なのか。愛しい娘、マーブルよ。一体誰が私の行く手をはばんでいるのだ。今すぐこの大地をもとに戻すのだ。さもなければ、お前も姉と同じ運命をたどることになるぞ。」
この言葉に怯え、マーブルは大地をもとに戻そうとした。しかし、グランカインは即座にマーブルを制止し、言った。
「アインハザードよ。もうそろそろやめたらどうだ。地上のあらゆるものがお前の怒りを恐れ、恐怖に震えている。賢明だが愚かなことをしでかした巨人たちも、自分たちの過ちを悔い改め、心の底から改心している。巨人たちを見よ。すべての生き物の上に立つものとして自信に満ちあふれていた彼らが、今ではあんな小さな高台に隠れて恐れおののき、お前と目も合わせられずにいるではないか。もう二度と大陸には降りて来られないだろう。また二度と私たち神にたてつくこともないだろう。あの高台は巨人たちの永遠の牢獄となり、彼らは永遠にそこに閉じ込められることになるのだ。だから、どうかもうその怒りを鎮めてくれないか。お前の復讐はもう終わったのだ。」
アインハザードは怒りを鎮めたわけではなかったが、自分と立場の同じグランカインの話に耳をかした。
また、グランカインがいうように、巨人たちに永遠にその行為を悔やませるには、彼らを皆殺しにするよりも、小さな、不毛の高台に捕えておくほうがよいと考えた。
そうしてついに、アインハザードは巨人たちを追うのをやめ、宮殿へと帰って行ったのだった。地上の生き物に失望したアインハザードは、その後、めったに地上でのできごとに関与しなくなった。
そしてグランカインもまた、むやみに地上に姿を現さないことに決めた。神々の時代は、こうして終焉を迎えたのだった。
ここで男は、しばし口をつぐんだ。彼が話している間、我々は金縛りにでもあったかのように、身じろぎも出来ずにいた。
彼の声は決して大きくはなかったが、まるで魔法の力に操られているかのように、我々の頭の奥深くに直接響いてくるのだ。
彼が語った神話は、我々が知っているものとは全く違うものだった。しかし、誰もそのことを彼に問いただすことは出来なかった
何とも言い難い薄気味悪い胸騒ぎが、全身を覆うのを感じた。大陸で最も勇猛なファイターである我々が、こんな取るに足らない男に、臆病な娘のように恐れを感じていたのだ。
木の枝に留まっていたフクロウが飛び立つ時の羽根のわずかな音に、我々は皆びくっと身をすくめた。男は我々をあざ笑い、タバコに火をつけて語りだした。
「私が話した神々の話が、君たちが知っているものとは違うからと言って、頭から否定しようとはしないでくれ。君たちの神官が、このさすらいの詩人よりも真実に近いという証拠はどこにもないのだ。神々の御業は神の御心であって、ヒューマンの意志ではないのだ。神官ごときがどうして真実を知っていると言えようか。私の話に耳を傾けるがいい。これは、神々が消えた後の大陸の話。君たちが歴史と呼んでいる話だ。」
歴史~ヒューマンの時代以前~・目次 |
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ヒューマンの時代以前・プロローグ |
1.計算された契約 |
2.大陸の覇者 |
3.闇の中のたき火のそばで…エルモアデン |
すべての生命体の上に君臨していた巨人たちが突然姿を消すと、大陸は大きな混乱に陥った。巨人によって統制され続け、ただひたすら巨人のために生きて来た彼らは、自らの力で生きて行かなければならない時を迎えたのだ。
彼らは荒野に一人投げ出された子供のように怯え、なす術もなくただ呆然としていた。まして、星の槌が大陸を強打して起こった大災難は、事態を立て直せないほど、一層深刻なものにした。
多くの者が大災難により死んでいき、また多くの者が混乱の渦中に死んでいった。彼らはひたすら神に救いを求めたが、神々は決して応じなかった。
最初にこの状況を収拾して立ち上がった種族はエルフだった。彼らは巨人に統治されていた時代にも、政治を担っていた種族だった。彼らは互いに異なる種族をひとつにまとめ上げ、うまく治めているように見えた。
しかし時間が経つにつれ、エルフは巨人ほど大陸を治める能力がないということが少しずつ見え始めた。最初にエルフに反旗を翻したのは、オークだった。
「エルフが我々より強いのか?エルフに我々を統治する資格があるのか?我々よりも弱き者が生意気にも我々の上に君臨することを、決して認めることは出来ない!」
オークの軍事力は、実に恐るべきものだった。戦闘の中で生き、誇らしげに死を迎えるオークに対し、平和に暮らして来たエルフは、対抗することが出来なかった。一瞬にして、大陸のほとんどはオークの占領下に入り、エルフは大陸の片隅に追いやられた。
そこでエルフはドワーフに助けを求めた。彼らの莫大な資金と優れた武器があれば、オークと戦っても勝算があると判断したのだ。
「地の種族よ、我々に力を貸してくれ。あの凶暴なオークの一団が力まかせに我々を追い詰めるのだ。さあ、早く我々と共にあの連中を断罪しよう。」
だが、ドワーフはエルフの要請を冷たく断った。彼らの目には、大勢はすでにオークに傾いていると写ったのだ。常に実利を追求するドワーフが、弱者に手を差し伸べることはあり得ないことだった。エルフは怒り狂ったが、なす術はなかった。
エルフは、次に風の種族、アルテイアに助けを求めることにした。彼らの情報力と空中での攻撃力は、十分にエルフを助けオークを打ち破ることが出来るように思われた。 エルフの使節団は大陸の果てまで行き、彼らに助けを請いた。
「風の種族よ、我々を助けたまえ。かの無学なオークの一団が、力で我々を追い詰めているのだ。 我々と共に、あの連中に自らの愚かさを知らしめたまえ。」
しかしアルテイアは、いつものごとく大陸の情勢や戦争などにはまったく関心がなかった。 彼らは、どちら側の味方にもつかないことを心に決め、さらに深い奥地に隠れてしまった。 エルフは絶望した。
この時、何者かが出てきてエルフの前にひれ伏した。エルフを統べる王が注意深く見たところ、彼はヒューマンの王だった。 彼は、頭の上に枝で編んだ王冠のようなものをかぶっていた。
「何事だ、卑しいヒューマンの王よ。お前たちまでもが、我々を嘲弄しに来たと言うのか?」
エルフの王は嘆き叫んだ。すると、ヒューマンの王は地面に額がつくほど頭を垂れ、言上したのだ。
「違います、賢明なるエルフの王よ。我々は、ただ取るに足りない力ではありますが、お役に立てるかと思って参ったのです。」
この言葉にエルフは大いに喜んだ。たとえ愚かで無力なヒューマンといえども、彼らは非常に人数が多く、戦争の際には何らかの形で役に立つかもしれないと考えたのだ。
「なんと殊勝なことか、ヒューマンの王よ。お前たちはたとえ軽き存在であっても、我々のために進んでその命を捧げるという忠誠心は見上げたものだ。 この戦争を勝利に導けば、お前たちは我がエルフの次に位置する種族になれるだろう。」
この言葉にヒューマンの王は大いに感激し、何度も何度もひれ伏した。しかし、彼は再び注意深く頭を上げ、こう言った。
「限りなく尊いエルフの王よ。エルフの栄えある勝利のために、是非お許しいただきたいことがございます。我々はあまりにも微力です。 我々の歯はオークの体にかすり傷一つさえもつけることができず、我々の爪は彼らの筋肉にはね返されるだけなのです。 ですから、切にお願い申し上げます。どうか我々にあの連中に立ち向かえるだけの力をお与えください。我々に魔法をお教えください。」
ヒューマンのこの唐突な提案に、エルフは最初、あきれ果てて言葉もでず、次に甚だしい怒りを覚えた。 彼らは、すぐさま手を出してヒューマンの王を一握りの灰にしてしまおうとした。
しかしエルフの王、ベオラは理性を持って冷静に考え、彼らの主張を聞き入れることにした。 まず、ヒューマンがあまりにも力がなくてはオークに勝てるかが疑問であり、次にヒューマンの足りない頭で魔法を習得したところで、大きな威力にはならないと考えたのだ。
そしてこの決定は、結局彼女の命を奪ったのだった。ヒューマンは、エルフが予想していた以上に早く魔法を習得した。 それだけではなく、常に労働にいそしみ、仲間同士で戦って鍛錬した彼らの肉体は、オークほどではないが相当に強靭なものだった。
また、彼らは手先も器用で、武器を扱う手さばきも見事なものだった。 何よりも、ヒューマンはその数の多さを誇っていた。ヒューマンの軍隊は短期間に成長を遂げた。
ヒューマンとエルフの連合軍は、徐々にオークを制圧し始めた。
こうなると、今までオーク側について彼らに武器や要塞を作ってやっていたドワーフが、こちら側にもつくようになる。
ヒューマンは、ドワーフが作ってくれた精巧なアーマーと鋭い武器を使用し、一層強力になった。 もはや、エルフの軍隊がなくても、ヒューマンはオークの軍隊を撃退出来るようになっていた。
状況がこのように変わると、エルフは戦争に勝利を収めながらも、常に不安を抱くこととなった。 日に日に、ヒューマンが統制出来ないほど強力になるのを感じたのだ。 それでも、エルフは最後まで油断していた。
まさか、最も卑しい、クズのようなヒューマンが反逆を企んでいるとは思いもしなかったのだ。 その上、オークからの勝利が自分たちの目の前にある今、他のことを考える余裕もなかった。
ヒューマンは次第に高位魔法を習得して行き、ついに、数十年に及ぶ戦争はエルフ-ヒューマン連合軍の勝利に終わった。 オークは屈辱的な平和条約を締結し、自分たちの本拠地であるエルモア北部に追いやられたのだった。
「だが、エルフよ。これは君たちの勝利ではなく、あの汚らわしいヒューマンの勝利だ。 君たちは、自分たちが育てたあの怪物たちをどうやって阻止すると言うのだ。」
ヘストゥイの族長の吐き捨てるような毒舌通り、エルフはヒューマンという新しい脅威に立ち向かわなければならなかった。 しかし、既にエルフは長い戦争に疲れ果てていた。 反面、魔法という力を手にしたヒューマンは、初めて胸が高鳴っていた。 そしてついに、ヒューマンのエルフに対する反乱が起こったのだった。
ヒューマンはかなり以前から徹底、かつ秘密裏にこの謀反を企ててきたに違いなかった。 エルフは、この時初めて、飼い犬に手をかまれたことに気付き、悲鳴を上げたが、既に後の祭りだった。
魔法と魔法がぶつかり合う強力な戦闘が起こり、再び大陸は揺れた。 しかし、エルフは既に新しく台頭したヒューマンの勢力を防ぎきるだけの力を持っていなかった。
エルフは、ヒューマンの大規模な攻勢に次第に押されはじめ、ついには自分たちの本拠地であるエルフの森まで後退した。 そして、ヒューマンとの最後の決戦を準備したのだった。
この森はエルフの魔法力が最も強く作用する場所だったため、この森を足がかりに勝利を手にしようとしたのだ。 エルフはダンジョンを抜けてそこに身を潜め、ヒューマンに立ち向かった。
だが、およそ3カ月間続いた飽くなき戦いの末に勝者となったのは、ヒューマンだった。 エルフの自負心も、エルフの森の魔力も、優れた魔法力も、果てしなく押し寄せて来るヒューマンの軍隊をしのぎきることはできなかったのだ。
結局、エルフは甚大な被害を負って森の中へ逃げていった。ヒューマンも、それ以上、後を追うことはできなかった。 エルフは森のすべてに強力な結界を作り、他の種族の接近を防ぐこととした。
こうしてヒューマンが大陸の覇者となったのだった。
彼が話す歴史もまた、我々が知っている歴史とは違うものだった。しかし、我々はそれと似たような話をどこかで聞いたことがあった。 我々の一行で最も美しいエルフの娘、アルウェンは何に思いを馳せているのか、目に涙が光っていた。
男の言葉を聞いているうちに、夜は一層更けていった。しかし、どこからも獣の鳴き声は聞こえてこない。 風に揺れる木の枝の音も、渓谷を流れる小川のせせらぎも聞こえてはこない。 聞こえるのは荒々しい我々の息づかいと、たき火が燃える音だけ。まるで、山全体が息をひそめ、たき火のそばから漏れてくる話に耳を傾けているようだった。
「どうかね。最も卑しいヒューマンが最後に大陸の主となったという事実は、あまりにも皮肉なことではないかね?しかし、これはヒューマンの意志が作り出した結果。神々と言えども、まさかヒューマンが地上の支配者になろうとは想像だにしていなかっただろう。では、今から最も燦然と輝いたヒューマンの王国についての話をしてやろう。傲慢な者たちよ、聞くがいい。 これが巨人の前轍を踏んだヒューマンの話だ。」
歴史~エルモアデンの崩壊まで~・目次 |
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エルモアデンの崩壊まで・プロローグ |
1.エルモアデンとペリオス |
2.黒魔法のべレス |
3.ダークエルフの誕生 |
4.エルモアデンの没落 |
5.たき火のそばで…その後 |
長い戦争によって、ヒューマンの間には、原始的な形の国家が生まれ始めていた。
その中でも中心となるのは、エティナ族をはじめとする魔法を習得したヒューマンたちだった。彼らは、自分たちが持っている力で、人々を保護し、時には恐怖を与え、自分たちの王国を建国して行った。
この過程で大小さまざまな戦争が起こった。しかし、混乱期はそう長くは続かなかった。
結局、エティナ族の族長であったシュナイマンによって、現在のアデンとエルモア地方の統一が成されたのだった。彼は自分が建てた帝国の名をエルモアデンと定め、自らを皇帝と称した。
彼の祖父の頭に載せられていた枝の王冠は、ついに燦然と輝く宝石で飾られた金冠となり、彼の頭に載せられた。彼は、後世に神と同等な存在と思われるほどになったのだった。
大帝国の皇帝となったシュナイマンは、ヒューマンの先天的限界に悩んだ。
死と破滅を象徴するグランカインが自分たちの創造主だという事実は、いつも他種族に対する劣等感として作用していた。
さらに、この世の他の種族を作った残りカスが自分たちを形作っているという神話は、そのまま受け入れるにはあまりにも恥辱だった。新しい帝国のためには、彼らを尊いものとする新しい神話、新しい歴史が必要であった。
結局、シュナイマンは大々的な宗教改革を行い、グランカインの代わりにアインハザードをヒューマンの神とした。神話と歴史は歪曲され、黒魔法とグランカインの信者は迫害を受けた。
以後、何代にも及ぶ宗教改革は、最終的にアインハザードを善の神、グランカインを悪の神とし、ヒューマンはアインハザードを自分の創造主と考えるようになった。
この事実を知ったグランカインは、意外にも笑いながらこの事実を受け入れた。
「あの連中が私に仕えないと言っても、私は怒りはしない。だが、愚かなヒューマンよ。天をいくら手で覆っても、その天がお前たちの手より小さいと思うのか?」
大陸でエルモアデン帝国が生まれ、目覚しい発展を遂げている頃、海を挟んだグレシア地域は未だ混乱期にあった。
この地域にはヒューマンが接近し難い地域が広く分布しており、強力な権力の出現もなく、統合された政府樹立の道のりは遥かに遠いものだった。乱立した数十の小国家が各々少しずつ領地を占有し、戦争と政略を通して離合集散を繰り返していた。
しかし、エルモアデンの強力な軍隊が西海大橋と海路を通じて侵犯してくると、グレシア一帯の国家は連合体を構成してこれに立ち向かった。この渦中に多くの国王と貴族たちが死に、彼らが持っていた権力は生き残った者たちに自然の成り行きとして吸収されていった。
エルモアデンの侵略は、結果的にグレシア一帯に統一帝国が建設される基盤を築き、ペリオス帝国が誕生する事となる。
その後、ペリオスとエルモアデンは、互いに競って国力を強固なものにして行った。やはり、先に統一された帝国を建設し、また強力な軍隊を備えていたエルモアデンが、比較的優位を占めていた。
だが、2つの帝国の間にある海がペリオスの自主権を守っていた。また、ペリオスには巨人が残した優れた遺産が多く残っていた。
結局、エルモアデンは圧倒的と言える軍事的優位を持ってしても、思い通りにペリオスを服属させることは出来なかった。
エルモアデンには、象牙の塔という魔法機関がある。この機関は古代の巨人が使用していた魔法を復元し、それを再研究、発展させることを目的とした集団であった。
彼らが持っている魔法の力は実に屈強であり、かつてはエルモアデン帝国の皇帝とも肩を並べるほどの影響力を持ってもいた。
この象牙の塔出身の中で、最も強力な魔法を備えていたのが、あのべレスと言う者だ。彼は、ヒューマンが誕生して以来の最高の天才だった。
巨人の魔法に心酔し、それを磨き、ついにはそれらの力のほとんどを持つようになった。だが、その力はヒューマンが持ってはならない力。呪われた力を手にしたべレスは愚かな野望を抱くようになる。
これに警戒心を持った帝国と象牙の塔は手を組み、ベレスを処分することにした。しかし、ベレスの力はあまりにも強力だった。 象牙の塔のメイジたちは禁じられた黒魔法を使用することで、ようやくベレスの力を弱め、彼を地下に封じ込めた。
だが、ナイトとメイジが封印を監視していたにも関わらず、ベレスは封印を解いて脱出に成功する。彼はヘルバウンド島に身を隠し消えうせた魔法の力を再び蓄え、いつの日かもう一度大陸を占領するという野望に燃えていた。
この一件で、現在のグルーディオ南部一帯が、象牙の塔メイジの黒魔法の副作用により砂漠となってしまった。 このために、数多くの人々が命を落とすこととなる。
しかし、帝国はこれをべレスの行いとし、べレスに悪魔の烙印を押して、人々にそのような意識を植えつけたのだった。
エルフの森では大きな異変が起こっていた。
ヒューマンに大陸の覇権を奪われたエルフは、次第に自信を失くし、惰弱になっていった。彼らは大陸に対する野心をすべて失い、森の中での平安な暮らしに落ち着きはじめていた。
この状況に不満を抱いたのは褐色のエルフ族だった。元々進歩的な性向を持っていた彼らは、禁じられている黒魔法を習得してでもヒューマンと戦い続けなければならないと主張した。
だが、彼らの主張は、当然のごとく他のエルフの猛烈な反対にあう。その最中で、あるヒューマンメイジが褐色のエルフに接近する。彼は大胆にも褐色のエルフの族長に近づいて話かけた。
「褐色のエルフの王よ、あなた方は力をお望みですね。しかし、あの惰弱なマーシュエルフとその手下は、あなた方が強い力を持つことを恐れています。 あなた方が自分たちを攻撃しないか、もしくは不必要にヒューマンを刺激し、さらに大きな災難を呼び起こさないかと、そればかりを心配しているのです。しかし、そんな惰弱な考えが今のエルフを作ったのです。」
「お前は誰だ、ヒューマンのメイジよ。そんな言葉で我々を眩惑しようというのか?」
「私の名は、ダスパリオン、一介のメイジに過ぎません。しかし、私にはあなた方が望んでいる力があるのです。私はあなた方がその力を持てるように、お手伝いすることが出来ます。その代わりに、あなた方も私が望んでいるものをくださればいいのです。」
「お前が望んでいるもの?それは何だ?」
「それは、あなた方の若さ、すなわち不老長寿の秘法です。私がいくら魔法に精通してると言っても、結局はヒューマン。私の寿命は百年にもなりません。ですから、褐色のエルフの王よ。我々は互いに望むものを与えることが出来るのです。」
ダスパリオンが持つ強力な黒魔法に魅了された褐色のエルフは彼の提案を受け入れ、ついに黒魔法を習得するようになった。
ダスパリオンも褐色のエルフから望んでいた情報を得て満足し、森を離れた。エルフはこの事実を知り、アインハザードを捨てグランカインを追い始めた褐色のエルフを破門した。
こうしてエルフと褐色のエルフの間の戦闘が始まるのだが、この時、ダスパリオンのたくらみにより、褐色のエルフはマーシュエルフを全滅させる恐ろしい呪文を使用することになる。
一方、マーシュ エルフは、息絶えるその瞬間に、最後の力を尽くして自分たちを裏切った褐色のエルフに呪いをかけた。その結果、褐色のエルフの森は朽ち果て、褐色のエルフも暗闇の種族となってしまう。
それ以後、褐色のエルフはダークエルフと呼ばれるようになるのだった。
エルモアデンの黄金期は、エルモアデンの成立後、約千年が過ぎたバイウム皇帝の時代だった。バイウムは強力なカリスマで帝国史上最強の軍隊を作る。この軍隊は、エルモア北部において非常に大きな勢力を占めていたオークを、現在のオーク王国と呼ばれる黒い森に押しやった。
また、ペリオス帝国に大々的な攻撃を加え、グレシア南部一帯を占領する。この時期はヒューマンの王国が史上最大の領地を手にしていた時代である。ペリオスはこの戦争で莫大な被害を負い、体制が揺らぎ始める。
しかし、バイウムは晩年には征服戦争に興味を失い、永遠の命を追求し、帝国の国力を総動員して塔を建て始めた。
「私の名は大陸の隅々まで恐怖と共に響き渡っている。私の身動き一つで、数万名の人々の命が失いも、救われもするのだ。実に私の力は広大無辺だ。だが、このすべてのものを数十年しか持てないとは、なんと虚しいことであろう!いや、違う。私はあの神々から永遠の命を得、私の帝国を永遠に治めよう。」
バイウムの念願が込められた塔は、なんと30年にもわたって作られることになる。彼はこの塔で神々の居所にまで登り、彼らから永遠の命の秘法を手に入れるつもりだった。 しかし神々はこれを黙って見てはいなかった。
「卑しいヒューマンの子よ、彼もまた、卑しいヒューマンの子だ。お前が永遠の命を得ようと、恐れ多くも私の寝床を汚しに来るのか?お前たちは、巨人の最後から何の教訓も得てはいないということか。いいだろう、お前がそのように切に願うのが永遠の命ならば、私がお前にそれを与えよう。だが、お前もこの塔から一歩も出ることが出来ないであろう。」
神の怒りを買ったバイウムは塔のてっぺんに幽閉され、工事は中断されてしまう。しかし、この工事により、エルモアデンの国力は急速に傾いた。
帝国の求心力であった皇帝が突然消えると、彼の後継者の座をめぐり、皇族間に熾烈な争いが起きた。この争いに多くの貴族までもが加わり、ついにエルモアデン全体が内戦に陥ってしまった。
ただでさえ大工事で国力が弱まっていたところに大規模な内戦が繰り広げられると、帝国はこれ以上持ちこたえることができなかった。結局、千年以上続いてきた絢爛たるエルモアデン帝国は、わずか20年のうちに崩壊してしまうのだった。
夕飯、そしてたき火の温かさと引き換えに聞かせてくれる話は、次第に不愉快な方向に流れて行った。
メイジであるホルベンは顔を真っ赤にして男をにらみつけていた。しかし、いつもならすぐに罵倒と共にフィストやソード、あるいは魔法などを見舞わせているはずの我々が、金縛りにでもあったかのように各自の場所で身じろぎひとつ出来なかった。
私は固唾を飲んで見つめていた。この男の正体が何なのか、そして、なぜこんな話を我々にするのかわからなかったのだ。我々の間には、今にも張り裂けんばかりの緊張感がみなぎり始めていた。
しかし、男は我々のことなど眼中にもないかのように行動した。彼は周囲にある枯れ枝を拾い集め、消えそうになったたき火に放り込んだ。今にも消えるかのようにあえいでいた炎が、再び勢いを取り戻して燃え始めた。
「もうこれで、私の話も終わりに近づいた。今から話すことは、多分君たちがよく知っている話だろう。まだ続いている果てしなきヒューマンの罵り合い。 そして、それに付和雷同して踊らされている多くの種族たち。これはエルモアデンが解体された後の大陸の話だ。」
歴史~その後・目次 |
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その後・プロローグ |
1.パリスとラウル |
2.混沌の年代記 |
3.暁 |
エルモアデンの崩壊はペリオスの解体を少しだけ遅らせたが、結局グレシア南部を襲った伝染病と北部を襲った冷害が直接の原因となり、ペリオスは崩壊する。 エルモアデンの後に続き、ペリオス帝国も歴史の奥に消えてしまったのだ。
その後、大陸は混乱に包まれていた。まるで、大災難後を彷彿させる暗黒の時期だった。貴族たちは各々の名分を掲げて自分たちの王国を建て、時にはヒューマン以外の他種族に領土を明け渡しもした。
特にオークは軍隊を再整備し、再び大陸進出に立ち上がるのだった。彼らの軍隊は相変わらず強力で、すぐにエルモア北部を征服した。しかし、ノーブルオークと下級オーク間の葛藤が彼らの勢力を弱めてしまう。
ダークエルフとの終わりなき戦争のため、エルフにはこのような状況を利用する余裕がなかった。ドワーフはオークの軍隊に迫られ、志を掲げる機会さえも得られなかった。
この時、再び登場したヒューマンの国家が大陸北部のエルモア王国だった。エルモアデン帝国の皇帝の直系だと言う主張はさておき、エルモアは確かに強力な国家だった。
彼らは、大陸の覇権を取ろうと狙っていたオークを再びオーク王国に追いやり、ヒューマンの世界に根をおろして暮らしていたドワーフをまんまと騙して、スパイン山脈へと追い出した。
エルモアは強力な軍隊を背景に大陸の北部地域をすべて手中に収め、大陸の統一を目指して南進し始めた。だが、一度分裂した大陸の統一はそうたやすいことではなかった。
大陸南部で最も大きな勢力を形成していたオーレンは、自国の強みである強力なメイジたちとよく訓練された軍隊を使い、エルモアの激しい攻撃の勢いを防ぎきったのだ。
そして、それ以外の南国も次第に力を養い、国家の形態を備え始める。 オーレンを始めとする6、7カ国が均衡を保ちながら、各々の国家を発展させて行くのだった。
数百年に及ぶ戦乱の中で、最初に統一の道筋をつけたのはグレシアだった。ベハイム出身のパリスという一人の男が現れ、長い傭兵生活の中で多くの戦争に参加し、伝説のような名声を手にした。
彼はベハイムの軍隊にスカウトされ、ベハイムの領土を本来の5倍の大きさに広げた後、クーデターを起こして自らが王座についた。
まず、クェイサーの強力なハイランダーとの激烈な戦闘の末に彼らを降伏させる。生まれてこのかた、一度も負けたことのなかったハイランダーファイター、トルは彼との一対一の対決に敗れ、心の底から彼に感服したのだった。
「お前は本当にヒューマンなのか?ヒューマンがこのような強さを手に入れられるとは!」
「私がそれほどこの大陸の統一を熱望しているからだ。強き北のファイターよ、私に手を貸してくれ。そうすれば、お前に世界を見せてやろう。」
パリスはその後、白い鷹騎士団や風の騎士団、そして彼に忠誠を誓ったハイランダーファイターを指揮し、グレシア全域を縫うようにまばゆい戦果を上げる。
グレシアにおいてパリスによる統一活動が活発だった頃、大陸南部では統一帝国の建設が始められていた。この時、アデンに生まれた方が統一王ラウルだった。
「列国の君主たちよ、あなた方は今、すぐそこまで近づいて来ている、この強大な敵が見えますか?北の強国エルモアは虎視眈々と我々の財産と命を狙っています。海を挟んだグレシア地域までも統一されると、我々は獅子の口に頭を入れているがごとく、危険な状況に陥ってしまいます。我々は生き延びるために、一つになるほかないのです。」
彼は独特の話術と感化力を基に、着実に大陸南部を一つにまとめ始めた。
その時、エルモアはオークの大規模な反乱により、アデンに直接手を打てる状態ではなかった。
ラウルは、まず永遠なる友邦インナドリルと併合しアデン王国を建てた後、西進してギランとディオンを順に手に入れた。彼の戦争は血を流さないのが特徴だった。
しかし、長い間南国の盟主を自負してきたオレンは、たやすくアデンへの吸収を受け入れはしなかった。
結局、二つの国は全面戦争を始め、戦争は意外にもアデンの圧勝に終わる。その後、事態の推移を見守っていたグルーディオがアデンの領国であることを認め、アデンの統一は完了するのだった。
アデンの統一の知らせが伝えられたばかりの頃、グレシアでも最後まで抵抗していたフォウ一帯がパリスの手に落ちていた。パリスは首都をアルペンニノに移し、国家体制を整えた。
大陸で新しく生まれたアデンは、エルモアの鋭い攻撃を防ぎきり、その実力があなどれないことを立証した。
だが、ラウルの突然死により、展開は新しい局面を迎えることになる。エルモアは数回にわたりアデンの北方を侵攻し、トラビスはこれをよくしのいだが、熱病にかかり、ついにこの世を去った。
そして、彼の跡を継いでアデンの王位に就いたアマデオは、まだ16歳になったばかりの幼い少年だった。
「天が我がグレシア王国を助けてくださる!16歳の坊やが王位に就くとは、アデン王国もこれで終わりだ!」
パリスは新しくアデンの国王となった青二才のアマデオを軽く見ていた。しかし、エルモアの大規模な侵攻を見事にしのぎきると考えが変わる。
彼は、アデンがさらに力を養う前に、一度叩いておく必要があると考えた。そして彼は、自分の右腕であったジリオスの引き止めさえも振り切り、海路と陸路を通じてアデンに大々的な侵攻を開始した。
だが、結果はパリスの予想とはまったく違うものだった。エルモアの国王だったアステアが、父の敵でもあり昔からの敵国でもあるアデンと手を結んだのだ。
「恥知らずな奴め!自分の父の仇である狼野郎と一緒に刀を振り回すとは、いっそのことダガーを口にくわえて自決しろ!」
パリスは怒り心頭し、アステアに向かって叫んだが、アステアはゆったりとした表情でこの言葉に反撃した。
「狼野郎は後で倒せばいいが、今は年老いた猿を狩る時だからな。」
結局、ギラン一帯で繰り広げられた攻防戦を機に、グレシア軍は自分たちの国に退却してしまう。アデン侵攻の失敗は、負けることを知らずにいたパリスの自尊心に大きな傷を残した。
その後、病に倒れたパリスはその年を越すことが出来ずに死んでしまう。パリスの跡を継ぎ王位に就いたカルネイアは、大帝国を経営するにはやや柔弱な人物だった。ここに、ジリオスの後ろ盾を得たクセルスが謀反を起こし、この戦争はついにグレシアを真っ二つに分けてしまう。
二つの国家が相変わらずグレシアという一つの枠の中に入れられてはいたが、北グレシアと南グレシアは互いを牽制し、厳しく対峙するようになった。
これは、アデンを育て上げるのにあらん限りの力を注いでいたアマデオにとっては、何よりも喜ばしいことだった。
彼の主導の下、アデン、エルモア、グレシアは相互不可侵の平和条約を締結し、不安の残る平和な時期を迎えるのだった。
男が話を終えた時、いつの間にか空が白々と明け始めていた。長かった夜が明け、朝を迎えようとしている。たき火は完全に消え、煙の匂いだけが立ちこめていた。男は最後に残ったタバコに火をつけ、深く吸い込んだ。
「私の話はここまでだ。時間が経てば、おそらくもっと長い話になるだろう。いつの日か私の話に君たちの名が入ることになるかもしれない…。」
わずかに差し込む日差しが彼の頭巾の上をかすめていく。私は力を振り絞り、やっとのことで彼に一つ尋ねることが出来た。
「あなたは一体どなたなのですか?なぜ、我々にそんな話を聞かせてくださるのですか?」
男は黙って席を立ち、我々を見下ろした。座っている時は気付かなかったが、彼の背は非常に高かった。数十、いえ、数百メーターはあるようだった。
しかし、相変わらず彼の顔は見えない。次の瞬間、彼の姿は空気の中に溶け込んでいくように、すうっと消えてしまった。
我々は彼が消えてからもしばらくの間、身じろぎひとつ出来なかった。彼はその時、我々に何も言わなかったが、今、私は彼が誰なのか分かるような気がする。
世界に最初から存在し、ヒューマンに変装して話を聞かせてくれるほどに気がおけず、気まぐれな者。そして、おそらくヒューマンを創造した者。
我々は彼の話を聞いていたのだった。
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